不動産の贈与・財産分与・親族間の売買前提として、必要な登記の調査が必要

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実施する登記は、見積もり時点では未定?

 贈与や財産分与をはじめとする、知り合いとの間での不動産名義変更では、登記費用は不動産をゆずり受ける側と譲り渡す側の費用を一括して関係者の一方が支払うのが一般的だと思います。たいていはその不動産を欲しい人が全額を負担しますが、手放したい動機が強い持ち主側が全額負担、ということもあります。

親族間での売買でも、売り主側と買い主側にわけて司法書士報酬を請求したことはありません。知人間で不動産の名義を変える場合、当事者が話し合えば登記費用を折半したり一方が負担するなど負担の割合を好きなように決めることができます。法律でどうなっているかをウェブから探すより、相手と協議することのほうがよほど重要です。

 他人から不動産を買い受ける場合と違って、生前贈与や親族間の売買ではもともと不動産をゆずり受ける側に大きな利益が発生したり関係者の一方の意向を反映して登記申請が計画されることが多く、その計画に従って受動的に協力する側に費用を負担させられる関係にもありません。このため通常は、不動産をゆずり受けるほうが登記費用を全額負担するという意向が示されます(あくまでも、法律で決まっているからではありません)

 このことから知り合い・親族のあいだでの不動産の名義変更のご依頼を受ける場合、司法書士としては見積もりがほしい人が直接関心を持つ『不動産の名義を変える手続き』、つまり所有権移転登記や持分全部移転登記の費用のほかにも、事前に必要な準備の必要があればそれを含む手続き全体の費用を見積もらなければならない実情があります。

 実はこの作業が、すぐにはできないのです。
不動産を譲り渡す人の現在の住所氏名が、譲り渡す予定の不動産を取得したときの住所や氏名と違ったものになっていることはよくあります。
結婚していた期間に取得した夫婦共有の住宅について、離婚後に夫婦の一方が旧姓にもどったり転居した場合が典型的です。長年おなじところに住んでいる方でも、町名が自治体によって変えられた、ということもあるでしょう。これでも住所は変わった、と考えなければなりません。

登記名義人住所・氏名変更登記別に必要かもしれません

 こうした場合、不動産の持ち主として記録されている所有者の住所や氏名をいったん現在の住所や氏名に書き換える登記を通してから所有権移転や持分全部移転の登記を申請する必要があるのです。
この登記は所有権登記名義人住所(氏名)変更登記といい、実費である登録免許税のほか司法書士に依頼すればその報酬がかかります。

 ある不動産の名義を変えようとするさいに、必要な登記申請とその実費を確定するにはその不動産の現在の登記の状況を確認しなければなりません。不動産を手放そうとする人の登記上の住所氏名と現在の住所氏名に食い違いはないか比べなければならないからです。不動産の登記の情報を確認するには、数百円ですが実費がかかります。

 不動産業者が関与する売買なら業者さんがこの作業を事前にしてくれるわけですが、知り合いの間での不動産登記では自分か司法書士かが不動産の登記情報を確認しなければなりません。事務所によっては、不動産を譲り渡す人の住所氏名が登記上の住所氏名と同じであると仮定して費用を見積もってくれるかもしれませんが、登記の情報が確認されるまではその見積もりは確定的なものではありません。

逆に、この検討がないまま贈与や財産分与の登記費用だけウェブで調べて回っても、登記費用の総額としては正しい見積もりにたどりつきません。広告収入を集めるために素人が書いたウェブサイトには不動産登記をテーマにするものも存在しますが多くはこの点に言及がなく、さらにわかりにくくなっているのがここ数年の傾向です。

別に必要な登記と登記費用

知人とのあいだの不動産名義変更では、不動産の名義を変える登記=所有権移転登記のほかに、
「最終的に、なんの問題もないかたちで新たな持ち主に名義を変える」
「所有権移転登記の前にどうしても必要になる」
などの理由で必要になる別の登記申請があります。

これらの実費と司法書士報酬まで含めたものが皆さんからみた計画実現に要する登記費用のはずですが、現在の登記情報を司法書士が確認した後にこの費用の見積もりが加わることで困惑したり不快に思われるお客さまもいるようです。説明してしまいましょう。

所有権登記名義人住所(氏名)変更登記

不動産の持ち主の今の住所や氏名に次の変化があり、不動産の登記情報に記載されている元々の住所氏名と違うときに行います。この登記申請で、登記されている住所等をいったん今の正確な住所氏名に書き換える必要があります。この申請をさきにしないと、所有権移転の登記申請が通りません。

  • 不動産取得後に引っ越した
  • 転居していないが、不動産取得後に町名や地番の変更があった(区画整理や土地改良があった)
  • 離婚・結婚で名字が変わった
  • 養子縁組その他の手続きにより、名字や氏名が変わった

要約すると、「不動産の登記情報に書いてある、持ち主の住所氏名」と「持ち主の印鑑証明書に書いてある住所氏名」が違う場合にはこの登記申請が必要になり、避けることはできません。合併で市町村名が変わったがそれに続く住所に変更がない場合だけは、申請不要です。

この登記を司法書士に依頼する場合、最初の不動産1個につき数千円〜1万円台の報酬と不動産1個につき1000円の登録免許税がかかります。当事務所の場合、司法書士報酬は最初の不動産1個につき5千円、以後不動産1個につき2000円が増加します。

抵当権・仮登記などの抹消登記

制度上必須ではないのですが、ご家族以外の人に不動産の名義を変えるときにはしておいたほうがいい登記申請です。

典型的なのは、不動産の今の持ち主が住宅ローンを返し終わったのに、まだ抵当権抹消の登記をしていない場合です。
お金を返し終わった事実があるならば、犯罪を犯す覚悟でもないかぎりこの抵当権の登記を悪いことに使うことはできません。しかし、借金が返済済みだと知らない他人が不動産を買いたい気にならない(登記を抹消しない限り、事実上転売できなくなる)等の不便が生じます。

抵当権のほか、根抵当権・賃借権の登記、売買予約などによる仮登記で効力のないものなどが残っている場合、司法書士は所有権移転登記に際して、これを抹消しておくことを考えます。

この登記を司法書士に依頼する場合も、抹消に要する書類が完備されていれば最初の不動産1個につき数千円〜1万円台の報酬と不動産1個につき1000円の登録免許税がかかるだけです。過去のものなど難易度が高い場合は十数万円の費用を追加して裁判手続きをしてようやく抹消できる、ということもあります。

これらの過去の登記が残っていないか確認するためにも、不動産の登記情報を確認することが必要です。

未登記の建物の建物表題登記・所有権保存登記

土地とその上に建っている古い建物を一緒に買うとき、土地は持ち主名義の登記があっても建物には登記そのものがないことがあります。よくあることです。

この場合は、次の対処方法が考えられます。

  1. 建物の登記はしない。未登記のままその建物を含めて土地を買うように契約書を作り、市町村役場に固定資産税を課税される所有者を変える届出だけ出しておく
  2. 登記させた後で買う。今の持ち主にいったん建物表題登記・所有権保存登記させて未登記の状態を解消し、所有権移転登記を経て建物を自分の名義にする
  3. 買ったあとで登記する。未登記の状態で建物を購入するが、購入後に建物表題登記・所有権保存登記を買い主が行う

単純に登記費用は安いが未登記の状態が続くのは1.で、これは早晩解体するような家の購入時によく採られる方法です。
買い主が所有権保存の登記を終えるまでに必要な書類(建物を売り主が正しく取得し、売り主から買い主に売却されたことがわかる全書類)が完備されている場合は3.の方法を採って所有権移転の登録免許税が節約できるかもしれません。昭和時代の建築確認申請書や検査済証が保存されていた中古住宅を知り合いに売る登記申請で、こうした計画にそって費用を見積もったことがあります。

それぞれの方針を司法書士側が提案するかどうかは各事務所によりますが、登記費用の見積額ももちろん変わります。

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