不動産の贈与・財産分与・親族間の売買見積もりの際に、司法書士に伝えること

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見積もりの依頼にあたって伝えること知人との不動産名義変更

 ここまで述べたような制限や実情があると認識したうえで、司法書士に親族・知人間での不動産登記の見積もりを頼むにはどのようなことを伝えたらいいでしょうか。順に説明します。

不動産を譲る人とゆずり受ける人の関係同居の親から子へ・東京の元夫から大阪の元妻へ、など

 誰が持っている不動産を、誰に譲渡したいのか、両者の関係はどのようなものか、これは基本的なことです。不動産の譲渡に際して少額でも代金を払うと決めているならそれも伝えてください。

 ここでのやりとりを通じて、司法書士は登記の原因(登記申請書に記載する、不動産の名義が変わる理由)が売買なのか贈与なのか、あるいは財産分与や相続なのかを考えていくはずです。

 生きている人たちのあいだで、代金の支払いを伴わず、離婚とは関係なく、言ってしまえばなんとなく不動産の名義を変えたい、すでに名義変更したのを元に戻したい、という問い合わせがあります。
これは不動産を贈与するものと考えなければならないことが多く、贈与税についてどう対処するつもりか聞かれることがあるかもしれません。税理士資格のない司法書士には税務相談はできないので、これは別にご自分で情報を集めておく必要があります。

 関係者の誰かが日本にいない・日本人ではない場合は揃えるべき書類が変わるかもしれませんので必ず司法書士に伝えてください。
日本在住の外国人でも外国人住民票や印鑑証明が取得でき、日本語が読み書きできる人なら登記申請の手間も費用も変わりません。

 このほか、日本在住の日本人でも遠方に住んでいるなど、登記の関係者のなかに見積もりを取りたい司法書士の事務所に行けそうにない人がいる場合はその旨伝えましょう。不動産の持ち主が寝たきりである(意思表示ができない)ことは計画を諦めさせるほどのインパクトがあります。不動産を手放す人が遠方に住んでいるだけなら申請はできますが、どのように登記申請を準備するか大きな問題になります。

 筆者の事務所では日本国内なら「司法書士がその人に会いに行く」という方法で対処しています。出張ごとに交通費や日当を見積もり、お客さまから承諾が得られれば実施する、という方法で主に関東方面へ出張しています。他事務所では、遠方の関係者の地元にいる他の司法書士と共同で申請する、という提案も考えられますが、関与する人が増えるぶん報酬に跳ね返るかもしれません。

 司法書士によっては本人限定受取郵便で委任状などの書類を送って返送してもらう提案が出てくることもあるでしょう。これでは「送った契約書や委任状入りの封筒を本人が受け取った」ということと「それらの書類に(誰かがした)署名捺印がなされて帰ってきた」ということがわかるだけです。

 つまり、本人限定受取郵便で書類を送って返送を受けても、厳密には書類を読んで署名捺印したのが本人だ、と断言できるものではないのです。書類の送り先にだれかが同居していれば、受取後の封筒を勝手に開封して署名捺印することはできてしまいます。実際にそれができるかどうかに加えて、そうした反論が出てきやすい点にも注目しなければなりません。いちばんお手軽な提案ではありますが、ここに一抹の不安を残します。

不動産とその価格

 郵送やオンラインで登記申請は出せるため、登記申請を要する不動産の所在地が関係者や司法書士事務所から遠い、ということは登記費用の見積もりをを変化させる要素になっても申請の障害にはなりません。ここで知りたいのは現在の登記の状況を確認したり、登録免許税を計算できるようにするための情報です。

○土地では

  • 所在
  • 地番
  • 固定資産税の課税明細書や評価証明書に記載されている価格

○建物では

  • 所在
  • 家屋番号
  • 固定資産税の課税明細書や評価証明書に記載されている価格

 これらを正確に伝える必要があるので、固定資産税の納付書(課税明細書のページ)に記載されている物件と価格のデータをファクスで送ってしまうと確実です。所有権移転の登記申請には、名義を変える不動産について固定資産税評価額等証明書(評価証明書)または通知書を添付する必要があります(大阪・名古屋など一部の市を除く)。あらかじめ市区町村役場で取得しておいてもよいでしょう。

 理想的には見積もり依頼をくださる方のほうであらかじめ不動産の登記情報(インターネットで取得できるものや、登記事項証明書・要約書)をとってそれをお送りいただきたいのですが、ここまでしてくださる方は5人に1人くらいです。とはいえ、単に電話で見積もり依頼を受けただけの段階では、見積書作成のために費用を投じて登記情報を確認することまではしない司法書士事務所が多いでしょう。
当事務所では、登記申請の前に有料相談にお越しいただいた場合は、実費無料で取得を代行するようにしています。

正確なデータが手元にないとき

 上記のデータが今はない、わからない、ということも当然あります。
その場合は、「土地とその上の住宅」・「マンションの一室」・「借地の上の建物一棟だけ」という程度に伝えれば、司法書士の報酬だけでも大まかに見積もってもらえるかもしれません。登録免許税が計算できない・所有権登記名義人表示変更登記の要否が不明であるなど、正確な登記費用の見積もりにならないのは仕方がないと考えてください。

不動産を譲る人の、登記済証または登記識別情報の有無

 生きている方が不動産を譲渡する際の登記申請で必要になるのが、現在の不動産の持ち主が持っているはずの登記済証(権利書)または登記識別情報です。平成17年に不動産登記法が変わるまでは一般的に権利書とか権利証と呼ばれていた書類が登記済証、制度が変わってから登記済証に代わって発行されるようになったのが登記識別情報です。

 これが提出できるかどうかは所有権移転登記申請の進み方や準備に大きく影響するので、あなたが不動産をゆずり受ける人なら早期に持ち主に確認しておく必要があります。有無が不明である場合も、不動産を手放す人は登記済証または有効な登記識別情報をもっているものと仮定して費用の見積もりを得ることはできるでしょう。

すでに作成した契約書や合意した条件があるか

 特に離婚で問題になります。行政書士が関与して財産分与の契約書を作成してあるとか、弁護士を代理人にしておこなった家事調停や訴訟の結果(判決または和解調書)を持っている、ということもあるでしょう。

 こうした場合、司法書士はその契約書や調停調書・判決書の内容を検討して、登記申請に使えるならばそのまま使います。逆に、すでにある書類が使用可能なら司法書士側での書類作成費用が減ります。
見積もりの段階では個人情報は必要ないので、そうした部分を伏せて提供すれば検討してもらえるでしょう。判決などの裁判書類は、執行文付与をはじめとする付随的な申立をしないと登記申請に使えないことがあります。これも登記費用に影響します。

 不動産業者が関与する売買の登記ではたまに見かける見積もりとして、当事者間では売買契約書を当然作っているのに法務局提出用の登記原因証明情報(または売渡証書)をわざわざ作って手数料を加算する、というものがあります。ですので事務所によっては、既に契約書がある状態でも見積書に登記原因証明情報作成の報酬が計上されてくるかもしれません。なるべく採用しないほうがいい見積もりです。

 契約書の作成に至っていなくても、相手とのあいだで決めてある、または決めたい条件や内容があるならばまとめて伝えてみてください。それらを盛り込んだ結果、司法書士が作成する契約書類の枚数が増えたり難易度が上がるようであれば登記費用の見積額に反映されます。

必要書類の取得を代行してもらうかどうか

 生きている人相互間で不動産の名義を変えるには、登記済証(または、登記識別情報)のほか次の書類が必要になります。

 不動産をゆずり渡す人が役所で取得するものとして

  • 印鑑証明書
  • 不動産の固定資産税評価額等証明書または評価通知書

 不動産をゆずり受ける人が役所で取得するものとして

  • 住民票

 これらの書類のうち、印鑑証明書はよほどのことがないかぎり第三者に取得を代行させることはないと考えますが、残りの書類は司法書士に収集を代行してもらう人もいるでしょう。その分費用が若干上がることが多いので、こうしたご希望がある場合は伝えてください。

 筆者の事務所ではこれらの書類の取得を代行する場合、出かける役所1ヶ所について3千円と他事務所より高い報酬を設定しています。他の事務所では、一通あたり1千円程度の報酬を計上することが多いはずです。
筆者の事務所の報酬が高いのは、遠方の不動産で評価証明書の取得が難しいような場合を除いて、こうした書類はご自分で集めることができると思うからです。
では遠方の不動産の評価証明書はどうしているかというと、その役所のウェブサイトをお客さまに案内して、郵送で手配するよう指導しています。結局自分でできるはずだ、ということになります。

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