『名義を変える』ということは…?売買による所有権移転登記を自分でするために

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登記のあとに、一時的に発生する費用

不動産の譲渡所得への課税(売り主)

 不動産を売ったら税金を取られる、と心配している人がいます。
 ですが、ほかの全ての所得税と同様に『利得を得た(儲かった)部分について税金をかける』という点では不動産の譲渡所得課税もおなじ、です。せっかくの土地建物を売ったお金を問答無用で持って行かれるわけではありません。

 さてそうすると、不動産を売却して『儲かったとき』とはどういう状態をさすでしょう?
 買った値段より高く売れたとき、であることはだいたい想像できると思います。
ここからさらに、つぎの2つのことに気づいていただけるでしょうか。

 1.すくなくとも土地の値段が右肩上がりに上がっているわけではない昨今、そう簡単に土地の売買差益が発生することはなく、したがって、すくなくともバブル崩壊後に購入した土地の売却で得たお金に課税されることはそうないのではないか。
 2.建物についても『建てたり買ったときより価値があがる』ことは一般的な建物ではまず考えないでよく、建物部分(中古住宅)の売却で得たお金に課税されることは、やはり可能性として低いのではないか。

 だいたいそう考えてよいです。ただし建物の場合は厳密には、買った値段からの減価償却やリフォームに投入した費用などによる価値の増減を考慮に入れる必要がありますが、これを加味しても上記のように考えてさしつかえありません。

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取得価格がわからない場合

 ですが、他に重要な問題があります。

そもそも、譲渡所得税は不動産を買ったとき支払った費用と売って得られたお金の差をだして、儲かった部分について課税される、というのですから、『買ったときの値段がわからない・異常に低い』場合はどうでしょう。

 具体的には、土地を買ったときの値段はわかっているが買ったのは昭和40年代で名目上の物価水準が低かった、そのために額面での売却価格と購入価格を比べれば儲けがでたように見えるとか、先祖代々相続して来た土地なので取得価格が不明、あるいは単純に値段を忘れて資料もない、といった状況にであったことがあります。

 この場合には税法上、不動産の売却価格の5%を取得価格として算定してよいことになっています。このほか、不動産の売却にかかった費用を売り主が負担するならそれを費用として引いてよいことになります。つまり、もしこの諸費用を全く算入せず、そして買ったときの値段がわからないような場合には、理論上は『売却価格の95%』について課税される、ということになります。

 税率は、長期譲渡所得と短期譲渡所得の2種類があります。『その不動産を売った年の、1月1日』の時点で、その不動産を所有していた期間が5年を超えるかどうかで短期か長期かを判断します。短期の転売差益には厳重な課税をするということで、短期譲渡所得の税率の方が高いのです。しかし5〜6年前に不動産を買ったが値段を忘れた、わからない、ということはあまり考えられないので、不動産を取得した値段がわからない状態で短期譲渡所得を課税されることはこれ以降考えないことにします。

 長期譲渡所得の税率は、所得税15%+住民税5%の合計20%です。仮に、代々相続してきたので取得価格がわからない土地を1000万円で売り、不動産業者を関与させず測量もせず、登記は司法書士に依頼せず、登録免許税は買い主が全額負担した(つまり売却にかかる費用は計上しない)という場合には、

1000万−(1000万×5%)=950万 これが、課税される譲渡所得になるので
950万×20%=190万

 この190万円のお金を、税金(不動産の長期譲渡所得税)として持って行かれることになります。とはいえ、自分が住んでいた家とその敷地の売却についてはいくつかの特例が設けられていますので、売買をめぐる事例として問題になるのは『相続などで取得してしまい、自分は住んだこともないような土地建物を売り払うとき』が多いと思います。
自分や家族が住んでいた居住用建物と土地の売却については、要件をみたせば譲渡所得3000万円までは結果として無税になりますから、地方都市で自分の家を他人に売りました、という程度ならば(つまり、売値として3000万を超えないなら)譲渡所得の心配をするまでもありません。

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相続で得た不動産を売却するときに

 親の実家が田舎にあって、子供たちが土地建物を相続したが子供たち兄弟は住んだこともなく住む気もない。売ってしまって代金を分けよう!というのは発想としてよくある話です。

 あるいは、現在でも投資用のマンションの保有がそこそこはやっているのをみると、死亡した親は名古屋に住んでおり、相続人になる子供たち兄弟も名古屋にいるが、その親は東京に投資用のワンルームマンションを持っていた、相続人になる子供達はすでに結婚しており、そんな物件に住む気はない、というパターンもあるでしょう。いずれはきっと、こうした相続が大量に発生することになります。
 これらの相続不動産の売却時には、基本的に『自分で住んでいない不動産の売却』になります。こうした物件について不動産の譲渡所得の軽減に関する特例を受けることは、できません。そもそも別荘や投資用物件を売って得た所得への課税を軽減するような特例がありませんから。

 実際に相談にこられて、実際に困るケースです。素直に税金を払ってください、と言う前に、いくつか提案をします。

相続人のうちに、実際にそこに『住んでくれる』人はいませんか?

 もしいるならば、遺産分割協議をしてその人にその不動産を取得させてしまいます。もちろん『実際に住んでくれる』ことが重要ですので無理はしません。その後は、新たに住むことになった相続人名義でその家屋を売却するときに、自分が住んでいる土地家屋の売却に関して譲渡所得の課税に関する特例を受けてもらうことを目指します。都会にある投資用物件であっても、相続人のお子さんが下宿代わりにする、ということができるかもしれません。
 この場合はもちろん自然な遺産分割を通じて順当に、その人が住むようになってもらわないと困ります。無理には勧めていません。また、課税逃れのために偽りの遺産分割協議をし、住民票だけ移すなどというのはもちろん違法です。

相続人のうちに、近々不動産売買で損をしそうな人いませんか?

 上記の表現で質問をすると、お客様方はたいてい目を点にします。
ただし聞いてるこっちはかなり本気で、下記のように説明するとだいたい納得してもらえます。

 これは、同じ年に差益が発生する売却と差損が発生する売却を同一人に行わせて譲渡所得の損益を通算しようというものです。世の中には不動産投資が好きな人がいらっしゃって、そうした人から複数の不動産を一度に相続する場合の遺産分割協議にも同じ発想が使えます。
 つまり、購入時の領収証や契約書がちゃんとあって、売却にあたってはっきり差損が出せる物件と、そうでないがゆえに売却代金に課税される物件をおなじ人に相続させ、同じ年に首尾よくどちらも売却できれば両者の損益が通算できるわけです。
 ただ、被相続人が税務上の問題を一切無視した遺言を残していたり、そうでなければ、まるでドラマのように強欲で陰謀家の親族が登場して相続紛争が発生してしまうこともあり、そもそも有効な提案ができない環境に放りこまれてしまって司法書士兼ファイナンシャルプランナーとしては残念な思いをすることもあります。

 相続後の遺産の分け方として、ある不動産を『売ってしまって、そのお金を分ける』という遺産分割や遺言は可能です。ですがその表現によって、課税のありかたが違ってくることがあります。

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換価分割と代償分割の例

例です。親が死亡して、子どもの社労太郎と司法花子が霞ヶ関にある先祖伝来の土地(取得価格不明)1筆を相続する場合です。売却価格1000万、諸経費はかからないと仮定します。

不動産1個を社労太郎持分1/2、司法次郎持分1/2として相続する
または、この不動産を換価分割し代金を1/2ずつ相続すると決め、その後で二人同時に売却する

 →これは不動産を法定相続した場合か、売却して代金を分割することを遺産分割協議に盛り込んだ場合です。なお、相続した財産を売ってその代金を分割する遺産分割は換価分割といいます。この場合、その売却事務をだれが行うかに関わらず、不動産の譲渡所得は『売却で分割されるお金を得た人に、そのお金の額を基準に』課税されます。よって当然ながら、この不動産が売れた場合、社労太郎の譲渡所得475万、司法花子の譲渡所得475万に対して、それぞれ実質20%の課税がなされますから、両兄弟の税引き後手取り額は最終的に405万円ずつです。

たまたま司法花子に他の不動産売却の予定があり、そちらで1000万円の売却損が出る場合

 →この場合は司法花子にこの不動産を100%相続させ、その代わりに現金500万円を司法花子が社労太郎に渡す代償分割を行う、という遺産分割協議をすることにします。
 代償分割というのは、ある相続財産をもらう人が、自分が持っている(相続した財産ではない)財産をほかの相続人に渡すことで差し引きの調整を行う遺産分割の一種です。この例では、『ある相続財産』は親から相続する土地、『差し引き調整のために渡す、自分が持っている財産』は、現金500万円、になります。

 この現金500万円をどうやって調達するかは遺産分割協議の関わるところではないので、相続した不動産を売り払って調達しても自分の貯金から出してもべつにかまいません。よって、不動産にかかる譲渡所得は、代償分割の場合は不動産を相続し売り払った者のみに課税されます。代償分割としての現金500万円の動きは無視できるのが、換価分割との違いです。
 すると、相続した不動産の売却と同じ年に、もともと司法花子が持っていた不動産を売り払って損をだすことができれば、この2つの不動産取引の損益を通算できて譲渡所得への課税を減らせます。最終的には、この相続をめぐって社労太郎は500万円の現金を得ることになり、司法花子は売却差損のぶん譲渡所得を減らしたことで課税される金額を減らし、二名の合計で換価分割の場合より多くの現金を手にすることができる、ということになります。

 しかしながら、こうしてみると単に法的な、あるいは権利の安定性のみを求めてする遺言や遺産分割協議というのは、課税という面からみてあまりいいものにはならないこともある、ということがわかります。もし上記の例で、親が『この不動産を売って、代金を半分ずつ分割しなさい』と遺言していたら、そのとおりにするなら代償分割をつかって損益通算、というようなことはできませんから。
 ここで注目しているのは相続税ではなく不動産の譲渡所得に対する課税ですから、相続税が発生しない大部分の相続においても、不動産を巡る相続の対策で最初に相談すべきは行政書士でも司法書士でもなく、『相続が得意な税理士・ファイナンシャルプランナー』なのではないかと思います。まして法務局の無料登記相談では、それこそ不動産登記のことしかわかりません。

 不動産は兄弟たちで適当に法定相続して登記も自分でおこない、物件は親類に売り払って代金は山分け、というのもよくある話です。

それもいいですが、相談や登記申請の司法書士費用を省いて得したつもりで実は結構な…時に数十万円単位の損がでているのかもしれません。

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参考文献

この他の参考文献

不動産登記の本人申請に関するもの

売買など、契約に関するもの

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