内容証明郵便とは −ただのお手紙です−

一般に『内容証明郵便』は、なんだか特別なもののような印象を持たれています。

別にそんなことはありません。

内容証明郵便は郵便局の特殊なサービスの一つで、出した文書の記載の内容を第三者である郵便局で証明してもらえる、というだけのもの。ただのお手紙です。

ですがこの証明機能から、内容証明を送った人と受け取った人のあいだで言った言わないの水掛け論を防げることになります。この機能に期待して時効を止めるための催告や、訴訟突入前の最後通告、そのほか法律問題に関して使われることが多く、紛争にかかわっているために内容証明がそれ自体なにか物騒なものだ、という誤解を広めることになっているようです。

ウェブサイトによっては、内容証明を出して相手が黙っていればこちらの言い分を認めたことになると主張するものがあります。裁判所内の郵便局から差し出すことで、裁判所から送られた文書だと誤信させてはどうか、というものもあります。

架空請求にも、そうした手口があります。犯罪者と同レベルの発想です。

もちろん内容証明郵便は、受け取った相手が特に反応しなければそれまでのものです。

労働紛争の世界では、内容証明には『とにかくこっちの意志が向こうに伝わったことが後日証明できる』という以上の意味はありません。それどころか相手には、受け取る義務すらありません。たまたま不在で返送されても最低1252円ムダになります。あきらめてください

しょせんこの程度のものですから、時効の中断を図る場合を除いては訴訟に入る前に必ず行う必要もありません。

労働基準監督署に給料未払いの相談に行った場合で、先に内容証明で請求してみるように、といわれた場合には仕方がありません。しかし、ここ数年で労基署における労働相談でも、必ずしも内容証明の利用を要しないとする指導が一般的になってきました。

このように詳しく説明すればするほど内容証明郵便が『ただのお手紙』であることがわかるのですが、こんなものを万単位の金を払って人に作ってもらうようでは、その後敵が徹底的に争ってきた場合の対応など自分でできるはずはありません。

また、内容証明作成を代行する業者のウェブサイトで彼らが口にするのは『専門業者が作成したと表示し職印を押す。だから相手への影響力が強まる』というのがセールストークなのですが…

これ、考えれば考えるほどおかしいのです。

冷静に考えるとこの人たち、訴状の作成ができる(司法書士または弁護士)のでも労働基準監督署への申告書作成をしたり労働法の専門家である(社会保険労務士)わけでもありません。弁護士のように説明不要なほどの、圧倒的ネームバリューもありません。
そうするとむしろ、敵が冷静にこちらの戦力を分析してくるタイプであるほど邪魔です。『私はあとの手続きはできませんが、本人は法的措置をとると言ってます』というお手紙を書くだけの人なのですから!

これが、労働紛争で弁護士以外の業者をつかって有料で内容証明を作成させることは無意味という理由です。

訴状を作って訴訟を起こせば相手を問答無用で手続きに巻き込むことができますが、内容証明にはこうした強制力は皆無なのです。

内容証明郵便はこのようなものなのですが、送った文書の内容があとに残るという特徴はむしろ作成者へのプレッシャーになってきます。うっかり間違ったことを書くことは許されません。時効中断に失敗したり遅延利息の請求を忘れたりして自分の権利が吹っ飛ぶぐらいなら、まだよいです。悪くすると、敵につけいる隙をあたえます。

作成提出する以上は、ある程度の品質を満たしている必要は絶対にあります。
重要なのは『○○書士の職印』という見かけより、『法的に正確な主張』というなかみなのです。

そうであるなら、代行業者に内容証明を作らせるお金で、弁護士や当事務所の相談を使った方がまだ後の役に立ちます。限りあるコストをどう配分するか、を誤ってはなりません。紛争の初動で正確な法的主張ができれば、あとは内容証明作成なり少額訴訟が自力でできるビジョンが見えてきますが、最初に不適切なことをすると後で回復するのに専門家でも苦労します。

誰にも頼らずお金を使わずにやろうとして失敗する人もいますが、さりとて不適切な業者に頼ってお金をムダにすることもおすすめできません。

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内容証明郵便が相手に与える印象は?

総じて悪いです(笑)

これは先に述べた内容証明郵便についての誤解のせいですが、ほとんどの場合内容証明郵便の到着をもって戦争状態に入ります。これは承知しておきましょう。

場合によっては顧問弁護士が出てきます。代理人として回答書をつくって送ってくるかもしれません。

こうなると○○書士の出る幕ではありません。残念ながら、ブランド力で完全に負けています。

仮にその○○書士(筆者は司法書士で、行政書士ではありません)が、本当は高い能力を持っている場合でも、顧問弁護士を動員してしまった敵の心理として『弁護士は○○書士よりえらいはずだから、ちょこざいな労働者など○○書士ごと揉みつぶして勝ってくれるだろう』という誤断あるいは願望が、実際の紛争の終結を遅らせます。

これは法律業界のヒエラルキーとしてどうしようもないし、内容証明で送付する文書が法的に正しいかどうかとも全く関係ありません。この点からも、弁護士でない作成代行業者の利用はおすすめできません。どうせ有料なら、最初から弁護士に内容証明を作らせた方がずっとよいのです。

もちろん、クーリングオフなどで法的に正確な文書がとどけば、それで終わりにできる紛争の場合には、適当な業者に依頼して構いません。ですが相手が争いたいだけ争える労働紛争では、内容証明は『紛争の終わりの始まり』にすぎないのです。相手が徹底的に争った場合に手続きに関与できなくなる人に頼むのは、ムダです。

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Last Updated : 2013-07-09  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.