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匿名で相談希望相談を受ける側が誰か…?にも興味がないようです

当事務所への電話での問い合わせでは、まず名乗ってくれる人のほうが少なくなりました。

問題なのはウェブサイト備え付けのフォームで氏名の記入を必須としているのに、イニシャルでしょうか「S.S.」などと記入したり、ひどいのは氏名記入欄に「匿名」と記入してくる問い合わせです。労働相談にかぎらず、紛争性の高い裁判書類作成などの問い合わせでときおり見かけます。

こちらが氏名をあかした状態でいるところへ問い合わせをしているのに、答えを送りたい人の名前がわからない、というのは人として信頼するに足りない気がします。
必須と指定した記載事項がない問い合わせですので、遠慮なくメールをゴミ箱に放ります。

名前らしいものが書いてはあるが、送信経路がVPNを使ったインドのアクセスポイントから、といった手の込んだやり方で匿名性を確保しようとしているものもあります。一応回答は送りますが、やはり依頼につながる事例はありません。こうしたかたちで発信者の素性を隠そうとしている問い合わせには、自分に有利な回答だけほしいと考える人が多いように思えます。

筆者の事務所のように零細ですと、感情や常識だけで判断すれば済むかもしれません。
依頼や事件数が多い大事務所やその地域に事務所が少ない場合、実務上の問題が発生します。

労働相談でも利益相反の可能性はあります

弁護士・司法書士などある士業の事務所は労働者から最初の問い合わせを受けた時点で、その問い合わせをした人と対立する人からすでに相談や依頼を受けていることがあるかもしれません。
労働相談なら、すでに会社側から依頼をうけていたり顧問になっているかもしれないのです。個人の貸金や交通事故など、労働紛争とは関係ない依頼まで含めればさらに可能性が広がってしまいます。

そのような場合、後からきた問い合わせの方から相談や依頼を受けてはならないことが、司法書士や弁護士には倫理上定められています。

これに違反するのを防ぐため、匿名あるいは氏名不詳のかたちで送信される問い合わせには全て回答すべきでない、と士業の側では考えるのです。

ですから、明示的に匿名での問い合わせを可としている場合をのぞいて、労働相談にかぎらず士業の事務所へのメールによる問い合わせでは氏名は正確に記入して送信しなければなりません。

ただ、上記のように利益相反の可能性はどこにもありますから、匿名での問い合わせに応じると言っている事務所はそうした案件に応じる範囲をよほど狭める(たとえば労働紛争労働者側に限定し、事務所全体でその案件しか受けない)か、そうでなければ単に仕事と依頼人が十分少ない(匿名可としたって問い合わせなんか来ない)、ということなのかもしれません。

仕事がない事務所だから問い合わせへのハードルを下げている、という可能性も捨ててはいけないのです。

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Last Updated : 2018-08-10  Copyright © 2014 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.