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債権仮差押・差押命令申立の前には、
相手の財産を調べておく必要があります…難しくても。

債権仮差押・債権差押命令申立少額訴訟債権執行含む

これらはいずれも制度上、弁護士(訴訟代理)および司法書士(主として書類作成)が担当しうる業務なのですが、事案の複雑さにも影響されるため受託してくれる事務所の有無・報酬の実情は不明確です。

説明にあたって差押/仮差押ってなんですか?

「給料が未払いになったので、会社のお金を差し押さえたいんですが」という相談はよくあります。

ですが質問する方も差し押さえという言葉をよく知らない、というのもよくある話です。まずこの説明を試みることで、手続きとしての『差押』と『仮差押』の違いを簡単に示してみましょう。

さて、給料未払いをはじめとする債権回収にあたって訴訟を解決の手段に選ぶのはなぜでしょう?
もちろん、裁判所が(和解や判決で)お金を払えと決めたから債務者側が恐れ入って自発的にお金を払う、という事実上の効果はあります。
問題はそうでない場合で、このときに差し押さえという制度がかかわってきます。

強制執行とは・第三債務者とは

1.訴訟など裁判所での手続きで得られた和解や判決などに相手が従わない場合に、
2.認められた権利があっても相手から実現してもらえない側(権利はあるので、債権者)が、 3.さらに裁判所に申立をおこなって、
4.債務者の意思を無視して強制的にその権利を実現するための手続きを、
『強制執行』といいます。

差し押さえ(差押)とは

強制執行のうち、相手の財産について移動や換金や譲渡などの処分を禁じ、最終的にはそれをお金に換えて債権者に渡す方法で行われるのが『差押(差し押さえ)』の手続きです。

差し押さえの対象になる財産には土地や建物などの不動産もあれば、事業主や会社が相手なら売掛金や預金などの債権(お金を払わせる等、誰かに何かさせる権利は、債権という財産にあたります)、什器備品や貴金属などの動産もあるので、それら財産の種類に応じて差押命令申立の方法が異なります。

このページでは、会社に対する強制執行として一般的な『債権』に対する差押・仮差押命令申立について説明していきます。少額訴訟の結果を用いる債権執行として少額訴訟債権執行がありますが、このページの説明に出てくる言葉は債権差押命令とほぼ同じだと考えてお読みください。

第三債務者とは

債権差押命令・債権仮差押命令申立の説明を続けます。労働者に対しては債務者である会社(たとえば、給料を未払いにしている雇い主)が他の誰かに対して持っている権利(債権)があり、その権利を実現する義務を債務者に負っている人を『第三債務者』といいます。

第三債務者の例

債務者である会社に会社名義の預金を払い戻す義務を負っている銀行は、債権差押・債権仮差押命令申立の手続きを考えるときの第三債務者の代表例です。

仮差押と差押のちがい訴訟の前にできるのは、仮差押です

債権差押命令申立が裁判所は先行した別の手続き(支払督促・通常訴訟での判決・労働審判での調停など裁判手続きの結果)を受けて、そこで決まったことを強制的に実現するために行われるものです。
そうすると、未払い賃金の請求訴訟をゆっくりやっているあいだに会社の預金が使い果たされたり、あるいはわざと預金を隠したりして勝訴後の差し押さえを妨害されたら、債権者である労働者は困ってしまいますね。

そこで、お金の支払いを請求する訴訟を起こす前に、あるいは訴訟を起こして判決等の結果を待っているあいだに、あらかじめ相手方の財産について移動や売却などの処分を禁止しておくのが『仮差押』という手続きです。債権を目的に申し立てられる手続きを、債権仮差押命令申立といいます。

債権仮差押でお金が回収できるわけではありません

仮差押は訴訟で結果がでたわけではない状態で行われる手続きですので、たとえば会社名義の銀行預金への債権仮差押命令なら会社にとっては預金の引き出しが不可能になるだけです。
会社名義の預金は債権者(労働者)の手にわたされるのではなく、会社に対する払い渡しを禁止されたまま第三債務者である銀行に保管されることになります。

仮差押で移動が禁止された預金は最終的に、訴訟の結果を受けておこなう強制執行=銀行預金に対しては債権差押命令申立を経て債権者の手に渡されます。こうしてようやく未払い賃金の取り立てなど、権利の最終的な実現が図られることになるわけです。

以上のことから、裁判の結果(判決書や和解調書など。裁判の結果ではないですが、一部の公正証書含む)を持っている人は債権差押命令申立を検討することになります。そうでなければ今後起こす訴訟に備えて債権仮差押命令を申し立てるかどうか検討することになるでしょう。

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債権仮差押・差押命令申立の費用・申し立てる裁判所

債権仮差押命令申立

申し立てを受け付ける裁判所(債権仮差押)
本案訴訟(現在行われている、またはこれから起こす訴訟)の管轄裁判所
必要な実費(債権仮差押)

債務者1名・第三債務者1名の場合
手数料 2000円(債務者と債権者の数で増加する)
予納郵便切手4000円程度(裁判所で異なる)
債務者と第三債務者が法人であれば、その法人の登記事項証明書各600円

実費合計 7400円程度(裁判所で異なる)
この他、担保として 差押債権額の20%程度の金額
(請求債権が未払い賃金など、労働債権の場合)

債権差押命令申立・少額訴訟債権執行

申し立てを受け付ける裁判所
債権差押 債務者の住所または本店所在地を管轄する地方裁判所
地方裁判所支部では、債権執行を他の裁判所に集約していることがある
少額訴訟債権執行 少額訴訟が終結した簡易裁判所

必要な実費(債権差押・少額訴訟債権執行)
例 
債務者1名・第三債務者1名の場合
手数料 4000円
 (債務者と債権者の数、債務名義の数で増加する)
予納郵便切手3000円程度
 (裁判所で異なり、債務者と第三債務者の数で増加する)
当事者が法人なら、法人の全部事項証明書各600円

合計 8400円程度(裁判所で異なる)

債権仮差押・債権差押・少額訴訟債権執行共通

申し立てを支援できる法律資格
弁護士主に代理人として関与する
司法書士(当事務所) 申立書類の作成を行う。
簡易裁判所への債権仮差押命令申立・少額訴訟債権執行は代理することがある
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債権仮差押に要するお金のうち、担保は返ってきますが、大きな負担になります

債権者(労働者)側からみたら、提訴の前に債権仮差押命令を申し立てて会社の預金の引き出しを停止させたらハッピーエンドになりそうです。
ただ、訴訟をせずにいきなり財産の移動を禁じられたら仮差押をされた人はひどく困りますね。(ご自分がいきなり他人から預金の引き出しを禁止されたらいかがですか?)

この調整をはかるために、債権や不動産の仮差押命令の申し立てでは裁判所が定める金額を担保として供託する(法務局という役所に、仮差押を申し立てる人のお金を預ける)ことが必要です。

この金額や割合が事前にわからないことも、債権仮差押命令申立の難易度を上げる理由の一つです。

仮差押の担保30万の仮差押で担保6万、という経験が

たとえば未払い賃金を請求する訴訟の提起に先だって債権仮差押命令申立を行う場合、必要な担保の額は差し押さえたい金額の20%程度になります。いまにも潰れそうな会社に対して仮差押をかけたい場合、労働者に100万円ぶんの未払い給料があり、その会社が持つ売掛金200万円に対して債権仮差押をかけるには、約20万円の供託金が手続きの実費や弁護士等の報酬とは全く別に必要です。

今でも給料未払いで困ってるのに、手続きのためにさらに金を出せというのか!
と言われれば…確かにそうなんです。制度上、避けられません。

この供託金は訴訟での勝訴を経て債権差押命令申立にいたる一連の手続きが完了すれば戻ってきますが、その間ずっと資金を拘束されることになります。
このお金が用意できなければ債権仮差押命令申立の手続きそのものが選べません。

民事法律扶助制度の活用で供託に要する資金の貸し付けを受ける制度はありますが、この場合は必然的に弁護士を申立代理人にすることになります。
つまり最終的な費用は、法律扶助を使わない本人申立よりずっと増大します。

費用を節減するため純粋に本人での債権仮差押命令申立をしたいが供託金が調達できないとか、収入や資産はあるので民事法律扶助が適用されないという場合にはどうしようもありません。お金を借りても準備せよ、ということになります。

それに、法律扶助を受けるには事前に審査が必要です。極めて緊急性が高い状況があり、弁護士等への依頼から数日で債権仮差押の申立書を出さなければならないような場合に法律扶助が利用できるかどうかは、わかりません。

このように何らか理由があって担保にするお金が出せない場合でも、請求債権(未払いになっているお金)の全額ではなくその人が担保に出せるお金に応じて本来請求したい金額の一部を仮差押えするように申し立てることは、制度上は可能です。

実際にありそうな状況に即して説明すると、

  • 労働者は100万円の未払い給料があり、訴訟を起こす予定だ
  • 会社には今月末、売掛金として200万円の入金がある
  • 社長が自発的にその入金を労働者に回してくれる可能性は低い
  • 会社の経営状況は思わしくなく、ほかに財産がなさそう

こうした状況で100万円の給料や残業代の支払いを求めて訴訟を起こすことは、もちろん可能です。
ですが訴状の提出から第一回口頭弁論期日までには、ふつう1ヶ月程度かかりますので、この訴訟を起こしても今月の売掛金はいつもどおり会社に入金され、使われたり隠されてしまいます。他の財産が会社になければ、訴訟に勝っても差し押さえる財産がなく、どうしようもなくなります。

そんな事態を防ぐために、

  • 売掛金を差押債権とする『債権仮差押』の申立を訴訟の提起前に行います。
  • ただし担保として、20万円程度の現金を労働者が用意しておく必要があります。

このとき担保として出せるお金が10万円しかなければ、請求債権を50万円ぶんに抑えて債権仮差押命令申立を行うことも考えます。

この債権仮差押命令申立により、会社に対する売掛金の入金を禁止しておくことができるため、

  • 訴訟で判決なり和解を取ったあとで
  • さらに債権差押命令申立をおこなって、
  • その売掛金を取引先から労働者へ直接支払ってもらう、
  • そして、供託した担保も国から取り戻す

成功する債権仮差押命令の申し立ては、こうした過程をたどります。

ここで見たとおり、仮差押でただちにお金を支払ってもらえるわけではなく、逆に申立には結構な額の現金が一時的に必要になるわけです。

したがって、債権仮差押命令申立は決して気軽に選択できる手続きではありません。

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債権差押命令申立は担保は不要ですが、財産を探す必要は残ります

債権差押命令申立と少額訴訟債権執行の申立

債権差押命令申立は、裁判所における手続きで判決・和解・調停等の結果を得たあとに、債務者がその結果にしたがったお金の支払いをしない場合に利用する強制執行の手続きです。

少額訴訟債権執行は、少額訴訟における判決・和解・訴訟費用額確定処分の結果に基づいて債権の差し押さえを行う強制執行の手続きで、少額訴訟が終了した裁判所がそのまま管轄裁判所となる点に特色があります。手続きの構造は、管轄裁判所と発令者が異なるほかは債権差押命令の申立とほぼ同じです。

債権差押命令申立では、債権者(給料未払いが問題なら、労働者)から債務者(会社や個人事業主)に対して請求できる権利があることは、先行した訴訟などの裁判手続きの結果で明らかですから、債権仮差押命令申立とちがって担保は必要ありません。差押えが成功すれば、実際に労働者にお金の支払いがあって手続きが終了することになります。

また、債権差押命令申立で直接の効果が得られなくても、債務者側からお金は払うので手続きだけは取り下げるよう求められることもあり、それも実質的な目的達成と考えることができます。

したがって、差し押さえるべき財産がわかっていれば淡々と手続きに踏み切ればよいのですが、債務者の財産がわからないという理由で差押申立が不可能なことも多いです。これを探索する決まった方法は確立されていません。

債権差押命令申立を管轄する裁判所は、債務者が会社であればその本店所在地を管轄する裁判所になります。たとえば名古屋に支店がありそこで勤務していた労働者が名古屋地方裁判所に訴訟を起こして勝訴の判決を得た場合でも、相手の会社の本店が東京なら管轄は東京地方裁判所になってしまいます。

これまでやってきた訴訟とは管轄が異なることがある点で、本店が近くにない会社に対して訴訟等を起こす場合には注意が必要です。これに対して債権仮差押命令申立は、『本案の訴訟(これから起こす訴訟)』を管轄する裁判所に申し立てることができますので、なるべく近かったり有利そうな裁判所を選ぶ、といった選択の余地がでてきます。

補足

強制執行について調べているひとが『差し押さえ』や『仮差し押さえ』というキーワードで検索を試みることは一般的ですが、法律用語としてこれらの説明をする人たちは『差押』・『仮差押』と表記するのが一般的です。このコンテンツでも裁判所への申し立てについて説明するときには、こちらの表記に従います。

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参考文献債権差押・仮差押の一般向け解説本

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これは労働問題解決への法的手続を説明するコンテンツです

社労士・司法書士の相談・書類作成費用名古屋市〜東京・大阪

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