さまざまな誓約書

質問

わたしは次のような誓約書の契約書を提出するよう、会社から言われています。

上司の指示や業務上の命令を厳守し、違反したときには即時解雇されても異議ありません。

安全運転につとめることを誓約し、万一事故を起こしたときには損害の全額を賠償します。

会社の資料やデータを決して持ち出さず、持ち出していないことを明らかにする調査には無条件で応じます。

こうした誓約書に署名することで、いったいなにが起きるのでしょうか。そもそも署名に応じる義務はありますか?

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建前 そうした誓約書のなかには、一部は有効になるものもあります

使用者側は労働者に対して、さまざまなタイミングで誓約書への同意や署名をもとめてくることがあります。たいていの場合、記載事項が順当なものであれば署名でなく口頭で同意しただけでも約束として有効になることに注意する必要があります。我が国の契約の多くは、書面の作成や署名捺印といった様式ではなく現に同意を与えていれば有効になるよう定められています。

問題はその内容です。業種や状況に応じて使用者側が出してくる誓約書の内容はさまざまなのですが、基本的には会社が出してくる労働契約上の権利義務とは別の権利義務を定めるような誓約書には、同意したり署名したりする義務も必要もありません。あなたが納得したら同意等すればよい、というだけの話です。

しかしながら、そうした同意を与えなければ採用してくれないとか、在職中であればなんらか嫌がらせをうけたり退職時であれば最後の賃金を払わない、といった不利益を受けることがある実情は無視できません。

そこで、誓約書の内容ごとに「仮にやむを得ず署名捺印してしまったとしても、それが有効と言えるかどうか」を検討する必要が出てきます。

冒頭の質問のように、懲戒や損害賠償などの不利益を被ることをすべて認めて異議を述べない、というような誓約書が有効と考えられる可能性は少ないと言えます。一般的に、どのような契約でも将来にむかって予測ができないような過酷な義務を誰かに負わせることは困難です。

今後発生する賃金や残業代を請求しない、といった強行法規の明文に違反するような内容であれば、署名しても文句なしに無効です。

経済的な不利益でなくても、結果的に常識に反するような行動を容認するものだったらどうでしょう。社員が秘密データを持ち出していないかどうかを上司が調査することは、穏便な範囲であれば使用者が労働者に対して守秘義務を課せることの効果としても認められるところです。だからといって、社員の自宅に押し入ったり着ている服を脱がしたりしてまで調べてよい、というものではないはずです。場合によっては、常識に反する範囲だけが無効になる誓約書もある、ということになります。

ですので、誓約書の内容の妥当さを個別に検討し、有効であれば従わざるを得ませんので慎重な検討が必要です。

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本音 使用者側に都合のよい誓約書ほど、実は無意味です

  労働者が使用者に差し入れる誓約書というのは大抵の場合、使用者がもっぱら自分に都合よく作るものです。

記載されている約束に労働者が違反したら『一切の損害は労働者が負う』とか、『即時に解雇されても異議を述べない』とか、多少法律をかじった人間から見ればいかにも怪しい誓約書あるいは念書、契約書のいかに多いことでしょうか。

 ですがそうした誓約書は、大体の場合意味をなしません。そうした記載の内容が、強行法規に違反するか具体性を欠くため契約の内容になりえないからです。会社側が労働者への拘束を強めようとするほど内容としては正当性を失っていくのは、誓約書として逆説的なのですが、残念ながらそれが理解できない使用者・経営者も非常に多いのが実情です。時には、その事業場内では誓約書に基づく扱いがあたかも有効に見えてしまうことさえあるでしょう。

ただ、その誓約書に基づいて賃金の支払いを拒否されたり即時解雇などの労働基準法違反が発生したような場合には、労働基準監督署への申告を試みてもよいと思います。誓約書や念書はそれ自体書面に文章が書かれているものですから、それを見れば書いてある内容が無茶苦茶なことは第三者である労基署側担当者にも読み取れる、即ち労働基準法違反であることがわかりやすいためです。

 これに対して、合意する内容を無理なくわかりやすく確定したうえで労働者と使用者が自由な意思で作成・合意した誓約書がある場合には、それには誠実に従うべきです。誓約書の作成や適用に対して慎重な検討を要する理由はここにあります。労働者に不利な条項をあとで常に無効にできるというものではないからです。

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Last Updated :2018-10-04  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.