始末書提出の指示

質問

私は自分ではまじめに仕事をしているつもりなんですが、社長から怠けているといいがかりをつけられ、始末書を出すよう言われました。

始末書を出さずにいたら、就業規則には始末書の不提出について懲戒処分が定められているから、おまえを懲戒するぞと言われてしまいました。

私は始末書を出さなければならないものでしょうか。そもそも始末書とはどのようなものなのでしょうか?

ページトップへ戻る

建前 始末書を出す出さないは、強制できるものではありません

始末書がどのようなものかを定めた法律はありません。労働法そのほかの法律に、始末書という語が出てくる条文はないようです。

したがって、始末書がどのようなものであるか、何をかけばいいかは各使用者の制度次第ということになります。大企業であれば所定の書式があるかもしれません(つまり、不祥事の日常的発生を予期して様式を整備している、ということになりますが)。中小零細企業にはそんなものはないはずですから、だいたいつぎのようなことを書くのがよいことになります。

不祥事を発生させた事実(日時および内容、それを発生させたのが自分であると認める文言)

不祥事に至った経緯および原因

謝罪や反省

再発防止の意思または具体的な防止策

最後に「今後問題が起きた場合にはどのような処分を受けても異議はない」といった不利益処分を認容する文言を入れさせることもありますが、それ自体は誓約書に関する説明で述べたのと同様、特に効力はありません。

始末書はそれ自体、問題を起こした人が反省の意思を示すために提出するものと考えて自発的に提出することもできます。問題は始末書の提出を定めた就業規則がある場合です。

就業規則には懲戒処分の中に、始末書を提出させることと同時に戒告や譴責、出勤停止などの比較的軽い程度の処分を定めていることがあります。この始末書を提出しないことを重視して、会社の処分に従わないという理由でさらに重い懲戒を加えることができるような規定になっている就業規則もあります。この有効性が問題になります。

一般的には始末書の提出は個人の自由な意思にゆだねられるものですので、始末書を出すことで立場が有利になることはあっても始末書を出さないことで不利になることはあってはなりません。ただし、労働者として働いているうちに発生した問題に対して、事実に関する正確な報告をおこなわない、ということが問題であるならば始末書(というより報告書)を提出しないことがそれ自体労働契約上の義務に違反したり、懲戒処分の理由になることはあるでしょう。

すこしわかりにくいかもしれませんが、たとえば警備員がデパートで万引きを監視していて、それを取り逃がしたとしましょうか。

この場合、万引きを取り逃がしたことを反省するかどうかは警備員本人の問題ですので反省の弁を始末書に載せるかどうかは本人が決めればよいことです。一方で万引きの監視そのものは警備員の仕事そのものですから、取り逃がした事実を不利益に評価するかはさておいて、経験した事実に関しては正確な報告をあげる義務がある、と考えればよいでしょう。

こうしたことから、単に始末書を出せと言われた場合、事実に関する報告をすれば済むのか反省の弁がほしいのか、そして自分がいまそれに応じたほうがいいのかをよく考える必要がありますが、反省するかどうかはご自分の判断次第と考えてください。

ページトップへ戻る

本音 始末書というコトバだけ知ってる経営者の暴走なのかもしれません

  労働者が就労中に、なにがしか好ましくない行為をしたときに使用者に『始末書を提出する』というのはよく聞くことです。

 ですが労働者が使用者あるいは管理者に始末書を提出する義務、というのはそれ自体想定可能なのか?というところに争いがあることは建前としても述べられているとおりです。まして就業規則すらない中小零細企業で馬鹿な社長が労働者に始末書を出せと怒鳴ったところで、いちいちそれを相手にする必要があるかと問われたら首をかしげざるを得ません。まして、始末書を出さなければ解雇だとか、賃金を支払わないという主張にはほとんどの場合、正当性がありません。

誓約書の項でも述べましたが、使用者が労働者に始末書の提出を求める要求が、解雇予告手当を支払わない即時解雇通告や賃金不払いなど何らかの労働基準法違反と関連してなされている場合には、使用者側の説明によってその非常識さが誰にでも容易にわかるので、労働基準監督署への申告によって事態の打開を目指してよいと考えます。

 なおこの始末書、安易に相手から言われるままの内容で提出してしまうと、提出後に解雇されたような場合に労働者が解雇無効を争うと、使用者側から解雇を正当化するための根拠として証拠提出されてしまうことがあります。ですからなるべくそうした文書に署名捺印するのは避けたいところです。理想的にはその書類をいったん預かってコピーを取っておき、後日の反撃に備えるべきなのですが、たとえば始末書に署名捺印しないと部屋から出られない、というような非常事態の際には一応署名して退出後、ただちに内容証明を出して『始末書への署名は担当者に強要されたもので、本意でない』と宣言しておくといった対応も考えなければいけません。

もしそうした事態に巻き込まれた場合、労働相談に際しては、署名等させられたり作成させられた始末書の内容をなるべく正確に相談担当者に伝えて、判断をもとめるようにしてください。

ページトップへ戻る
Last Updated :2018-10-04  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.