証人尋問

裁:「原告と被告の主張はわかりました…これから尋問に入りますけど、宣誓はいいですよね?」

本当は砂上が宣誓するのを見たかったが、まあいいか。

被告主尋問

裁:「では被告から証人尋問の申し立てがでてますから…波田先生、お願いできますか?」

さあ、波田&砂上コンビのお手並み拝見だ!待機していたレポート用紙を前に身構える。実は証人尋問というやつ、これが全くの初めてだ。本で読んだ「右の目で被告の顔を、左の目で裁判官の顔を」観察していろ、なんてことができるのか?おまけに尋問の内容はぼく自身がメモしなければ反対尋問もへったくれもない。右目で被告陣営を、左目で裁判官をみながら、手は動かせよ鈴木!

シャープペンシルのおしりを2回ノックして芯を繰り出す。これなら芯は折れない。筆記中に芯がすり減ることもない。ついでに砂上をにらみつけておく。

波:「では砂上開発の代表者としてお聞きしていきますが、これは民事訴訟ですから、宣誓がないとはいえうそをいってはいけませんよ。本当のことをいうようにしてください」

砂:「はい」(おお、よう言った。この時点で既にウソだ!)

思いっきり、カッコ内に記した感情を込めて、砂上に熱い視線をぶん投げる。目線で人が殺せるなら、殺人未遂で現行犯逮捕だ。

波:「まず原告の鈴木さんを採用する面接をしたのは、平成11年8月26日でまちがいない、ですね」

砂:「はい」

波:「奥さんと一緒に面接しましたか」

砂:「はい」

波:「労働条件について、ですが、職安に出されている募集のとおり、というような説明をしましたか」

砂「いいえ。してません」(死ね砂上!)

早くも始まったよウソの羅列が。だがさすがにこっちの視線が気にはなるらしい。ちらちらと…こっちを見ては視線をそらす。もっと気にしろよ。そういう動作も、裁判官は見てるんだぞ!

波:「では、どのような労働条件で採用するのか、その面接では話しましたか」

砂:「話をしてません」(それを労働基準法15条の条件明示義務違反って言うんだよ!)

波:「では、その面接でどんな話をしましたか」

砂:「鈴木くんは補助者として、事務所の仕事を覚えたいと言っていました」(仕事を教えてやってるんだ、って立場を強調する気だ!)

波:「すぐに鈴木さんを雇うことにしたんですか」

砂:「そうです。即答しました」

波:「雇いはじめるに当たって、給料について話したことはないんですか」

砂:「ありません。他にも3人くらい補助者はいますから、鈴木くんだけ差別することもありません」

波:「砂上開発では、従業員に残業をさせることはありますか?」(きたきたきた!!)

砂:「ありませんん」(語尾が流れたぞ!)

波:「鈴木さんへの給料の支払についてお尋ねします。第一回めの給料が払われたのは、いつですか」

砂:「9月末です」

波:「支払った額は、いくらでしたか」

砂:「22万5733円です」

波:「基本給が18万5千円ということですが、鈴木さんへの給料の額としてはどうでしたか」

砂:「多すぎたとおもいます」(割増賃金をきちっと払ってサービス残業を全廃すりゃ基本給18万でもいいよ!)

波:「乙第7号証を見てください。鈴木さんの9月分の給与明細に、40時間44分と書いてありますが、その根拠はなんですか」

砂:「事務所にタイムカードがありまして、それから計算しています」

波:「そのタイムカードはこれですか?」

お、面白いものを持ってきたぞ!やっぱりとっておいてはあったんだ。

波:「じゃ裁判長、事実上見る、という形で見てください。鈴木さんも。…少額訴訟はこういうことが出来るからいいんだよね」

なんだか満足げにほほえんでいるが、さして意味があるとは思えない。

波:「では計算した給与明細というのは、いつどうやって渡すんですか」

砂:「給料袋にいれて、給料袋と一緒に渡します」

やっぱり、さっきしたり顔でタイムカードを持ち込んだ意味がない。

波:「続いて乙第6号証・第5号証をみてください。10月と11月の鈴木さんの給料で、基本給が18万円になっていることについては、鈴木さんから異議がありましたか」

砂:「ありません」

波:「乙第4号証をみてください。12月から鈴木さんの給料は、基本給が18万5千円になっているのはなぜですか」

砂:「在職が3ヶ月にもなりましたので、こちらで給料をあげました。」

波:「残業手当の金額が1250円でないというような苦情は、鈴木さんの在職中に聞いたことがありますか」

砂:「在職中には、聞いたことがありません」

波:「砂上事務所の状況についてお尋ねします。事務所には、従業員は何人いますか」

砂:「この頃で、4人です」

波:「このうち乙第6号証から第4号証によると、浜浦さんという方の残業手当だけは1350円になっていますが、これはなぜですか」

砂:「浜浦ちゅうんはもうウチの事務所に…9年ぐらいいたんです。それに土地家屋調査士の資格も持っていたんで」

波:「具体的に、このころ行政書士と土地家屋調査士の業務にたずさわっていた人は誰ですか」

砂:「私と、浜浦、蓮江、笹金と鈴木くんです」

波:「事務所の業務としてはどういったことを、どのくらい行っていましたか」

砂:「行政書士としては農地転用や開発行為の許可申請を月に10件くらい、土地家屋調査士としては建物表示の登記や土地分筆、測量など月に30件くらいです」

波:「測量などで外に出る作業はどのくらいありますか」

砂:「登記申請の提出まで含めれば、一週間の半分は出ています」

波:「残業をするよう、明示の指示をだしたことはありますか」(きたきた!またきた!よっぽど強調したいんだねこりゃ)

砂:「ありません」(もういい!あとで見てろよ!絶対一泡ふかしてやる!)

波:「残って仕事しなければならないような雰囲気というのは」(ほほぉ、明示の次は黙示かい)

砂:「雰囲気として自分で残っていくようなものは、あったと思います。昼間出来ないこととか、自分の仕事上のミスとか」(やったあ!ミスでもなんでも、これで事務所の仕事としては連続性がある!ざまみろ馬鹿!)

波:「砂上事務所として、本来5時以降まで残らなければならない業務が、状態として発生するようなことはありますか」(くどい!どーせ答えも分かり切ってる!なんならぼくが答えてやろうか?)

砂:「ありません」(やっぱりね。とにかくくどいんだよ!)

波:「給与明細に残業手当と書いてある点について、詳しく聞きますよ。まず残業手当として1時間1000円払っているのはなんのためですか」

砂:「5時以降も事務所に残っているということで、慰労のためです」(遺漏の間違いだろうが!)

波:「こうやって従業員が申告するままに払っているということですが、言われるままには払えないんじゃないですか?従業員が不正をするとは思いませんでしたか」

砂:「いえ、まあ信頼していますから」(ハイハイ。劇としてはよくできた演出ですよ)

波:「従業員が深夜にあたる時間まで残っているようなことは、あったようですか」

砂:「ないと思います」(ああ、立証はできないよ!ただ絶対一泡ふかしてやるぞ見てろ!)

波:「事務所の所定の終業時間は午後5時ということですが、それ以降残っている場合どんな仕事をしているか、は知っていましたか」

砂:「知りません」(人間のクズ!)

砂:「ただ、鈴木くんは書類への印鑑をもらい忘れることが何回かあって、申請人のところへ行ったことがあったようです」(だからそれが、お前がやらせた事務所の仕事だ、ってんだよオラ!)

波:「では、鈴木くんが事務所を辞めたのはいつですか」

砂:「訴状に書いてあるとおりです」(それじゃお前の証言にならんだろうが!訴状ってのはぼくが書いてるんだぞ!)

波:「訴状に書いてあるとおり平成12年2月3日ということですね。この日の鈴木さんの仕事はどんなものだったか覚えていますか」

砂:「覚えていますが、この日はくい打ちに行ったはずで直行直帰しています」

波:「どこへくい打ちに行ったのですか」

砂:「桑名市です」

波:「では2月3日は鈴木さんに会っていないんですね」

砂:「そうです」

波:「最後にあったのはいつですか」

砂:「2月2日です」

波:「鈴木さんが事務所をやめると言ってきたのは、いつですか」(そもそも言ってない!)

砂:「2月2日です」

波:「鈴木さんは事務所を辞めるのに、なんと言いましたか」(だから言ってないって!)

砂:「『やめます』ちゅうてました」

…今すぐこの場でこの人でなし2人の舌ベロを引っこ抜いて構わないだろうか?

それができたら、死んでもいい!
余った殺気を振りまいて、裁判官に目をやる。こっちはとりあえず無表情。

波:「やめるといわれたときに、その理由は聞きましたか」

砂:「いいえ、聞いてませんし、それで困ることはないんで」(ウソの中でも冷たい奴だな!)

波:「では鈴木さんが辞めるに当たってなにか不自然な点はありましたか」

砂:「自主退職なので、不自然なところはなかったと思います」

波:「砂上事務所で働く前に在籍していた芦葉事務所ですが、ここを辞めた理由は聞いていますか」

砂:「聞いていません」

波:「最後にいくつか聞きますが、今回証拠として提出した乙第1号証から乙第6号証の賃金台帳ですが、これはどこから持ってきたものですか」

砂:「事務所につづっておいてあるなかの、一部です」

波:「原告が提出している甲第4号証の離職票で、解雇、というところに印が付けてあるのはなぜですか」(きたきたきた!またなにかやってくれるぞこの2人!)

砂:「妻から聞いたところでは、鈴木くんの指示でしたということです」(たのむから、人を犯罪者にするのは在職中だけにしてくれよ!)

波:「鈴木さんが初めて砂上事務所に出勤したのは、いつからですか」

砂:「9月1日からです」(おいおい、8月30日からだって!)

波:「そのときに労働契約ということで契約書を交わすようなことはしましたか」

砂:「きちっとはしていません」(それはアンタが悪いのよ)

波:「今回原告から請求を受けていますけれど、お金を払うつもりはありますか」

砂:「払うつもりはありません」(死になさい。逝ってよし。)

波:「甲1号証を見てください。この求人公開カードで、残業手当1250円とかいてあるのは、誰の字ですか」

砂:「妻のです」

波:「もし基本給が5000円違っていたらどうでしょうか」

砂:「違いは大きいと思いますが、なぜそのときに質問しなかったのかと思います」(朝のあいさつすらまともにできないような人間に、給料について質問を?)

波:「これで被告側の尋問は以上です」

ふう。筆記だけで死にそうだ…が、これならいける。十分いける!

裁:「では今度は、裁判所からお尋ねします。原告を採用するに当たって面接の時に履歴書を見ていますね?」

波:「今持ってきています。見てもらいましょうか」だから波田センセイ、意味のないものばっかり持ってくるなよ。

裁:「この履歴書で芦葉事務所に半年働いておられたわけですが、この前はどこで働いておられたかご存じですか」

砂:「知りません」

裁:「行政書士事務所のことはよくわからないんですが、砂上事務所に入る前の半年の経験、というのはどのくらいのものなんでしょうか」

砂:「していないよりまし、くらいです」(ならもう少し遠慮して人を使え!)

裁:「事務所の中ではどんな仕事をさせていたんですか」

砂:「まあアシスタントと言うことで…(丸投げの間違いだろうが!)業務としては測量したりデスクワークで申請書を作成したりしていました」

裁:「それぞれの仕事の割合としてはどんな感じになっていましたか」

砂:「測量などで現場に出るのと、行政書士の農地転用や開発許可の書類を作るのと役所を回るのとで、1:1:1ぐらいです」

裁:「退職の時点で仕事の覚え具合はどうでしたか」

砂:「まだまだですね。10段階の、半分」(ほおぉ。じゃお前はそんな奴に仕事を丸投げしてたのかよ!)

裁:「ではこれで、裁判所からは以上です」

波:「すいません、こちらからもう少し」

何考えてるんだ波田センセイ?

波:「鈴木さんが平成12年2月3日に辞めてからはどのように事務所の仕事を進めていましたか」

砂:「そのあとすぐに蓮江というのが辞めたもんですから、笹金と二人になりましたから、2人だけではできないんでまた募集を出しました」(2人だけでは『できない』?なにか突けるかも)

波:「原告が訴状に書いてある文章の中で、気になる点はありませんでしたか」(きた!)

砂:「ええ、まず14ペーシ。(砂上はペーシというのが口癖)『砂上がこれまでどおりの違法な平和状態を維持するために支出した何万円かの内容証明支払報酬を丸ごと無駄にしてみせることが望みです』というのが、どうしてこんなこというのかな、と思いました」

ふん!図星を当てられて怒ってます、って言ってるのとおなじだね。お前達が調子に乗ってやってきたことの数分の1をお返ししてるに過ぎないのだよ。カネで弁護士買ったら違法なご主張がとおるようなら、法治国家なんざいらねぇって!ケッ!

砂:「あとは9ペーシでほかにも未払の金員があるといっているんですが、ではどうして請求しないのかと思います」

ハイハイ。あんたらみたいな人でなし相手じゃ、一筋縄じゃあいかないからですよ。

波:「こちらからは、以上です」

被告反対尋問

裁:「では原告のほうから、何か尋ねたいことがあればどうぞ。ただし議論にならないように」

よぉーし!!って気合いは十分なのにこれじゃあ、ゆっくり書証とメモを検討している時間がない。休廷してもらうわけにもいかないだろうし…

あ、まず時間が稼げる!

僕:「ええとこれは尋問というより求釈明になるんでしょうか…こちらの訴状で請求原因にあげている…8ページ七-6-bと七-6-cです…2月で中途退社している点について、基本給の未払分を請求させてもらってますが、

これ、被告からの認否がないんですよね。どうします?」

ごそごそごそごそ。向こうの二人は訴状と準備書面を代わる代わる見比べているらしい。

こっちはそんなことにお構いなく、実はさっきの尋問メモと今日出てきた書証の検討に必死だ。実はこの質問への回答なんかどうだっていい!なるべく回答が長引けば!

波:「それは請求としては否認ということで…給料の支払いについては乙第2号証記載の通りで未払はありません」(一生言ってろ!)

もうちょっと時間くれ!だから、

僕:「先ほどの尋問でぼくの入社の日について、9月1日から、ということでしたね?」

目線で確認を求める。よ〜しよし。いまひっくり返してやるからな。

僕:「ですが被告が既に提出の準備書面では原告の勤務開始が8月30日からであることについて争いがないし、甲第4号証でも私の勤務開始は8月30からになってるんですよね」

…ここで軽蔑のまなざし、って奴を作ってみよう。そしてこう言えばいいはず。

僕:「いったい砂上センセイは、どっちだと言いたいんですか?」

さすがにこれには砂上も目を点にしていた。いい気分だ!それに、この一撃は時間稼ぎでもあるが、相手の陳述があやふやであることを示すものにもなっている。

砂:「あ…では8月30日からで」ふん。もう2〜3時間黙っててくれてもよかったのに。

でもこの数十秒で、反撃主正面が見えた。

まず割増賃金。砂上事務所での居残りの作業が、実は仕事に連続していることを見せればいい。

つぎに基本給。これについては、砂上の給与の決め方がなるべくいい加減なものであるように、見せられないかやってみる!

まあ、もごもご言ってる被告も必死で電卓を叩いて乙号各証を見比べている原告も、裁判官から見りゃ妙な奴らなんだろうが。

僕:「これは原則的なことなんですが…砂上センセイ、行政書士の試験には労働基準法があったはずだけど…労働者に対して労働条件を明らかにする義務、というのはご存じでなかったですか?」

砂:「知りません」

(我ながら、意地が悪い。知ってたと答えても知らないと言っても不利になるだけ。)

僕:「なるほど、知らなかったんですか…では平成11年10月に、基本給が18万円になったときのことですが、なるほどぼくの方からはなにも言わなかった、というのがそちらの陳述でしたよね。でも、そちらからぼくの方へ説明はしましたか?」

砂:「していません」

僕:「12月に基本給が18万5千円になったときもしていませんか?」

砂:「していません」

たぶん、これでこちらがなんの異議も述べていなかったという主張は殺せるはずなんだけど…もう少し、給料をめぐる砂上のいい加減さを描き出したいな…

僕:「先ほどの尋問で、平成11年9月に原告に払った基本給18万5千円は、多すぎる、おっしゃいましたね?」

さらに目線で確認する。

僕:「では、その多すぎる18万5千円に、就職してたった3ヶ月後に昇給してしまうのはなぜですか?」

砂:「!」

沈黙すんなよ。まだ続きはあるぞ。

砂:「それは…三ヶ月も続けば可愛いっちゅうこともあるし」

よくいうよ。

僕:「じゃ可愛くなって給料が上がるのは、一応いいとします(笑)。…この月には、実は職務手当として10000円支給されてますね。乙第2号証から6号証まで見てくださいよ。ぼくより先に砂上開発で働き始めて、この間在職していた蓮江さんの給料については、一度も職務手当が支給されていない。ここでぼくの給料は、年間ベースでみれば入社がずっと先の蓮江さんを上回るんですが、おかしくありませんか?」

…この質問も意地悪だ。平成11年11月末ごろの砂上の思惑では、ぼくを事務所の補助者の主力にするつもりだったのを、給料に反映させていたのだから。まあ、砂上には自分のついた嘘の尻ぬぐいに頑張ってもらおう。

砂:「それは…司法書士の資格も持っとったし…」

僕:「じゃなんで、次の月にはその職務手当が支給がなくなるんですか?」

沈黙。

僕:「じゃ他の質問をします。先ほどの尋問では、ぼくの補助者としての半年の経験は「ないよりまし」という程度でしたね?さらに砂上事務所で働いた後も、評価としては『10段階の半分』だということでしたね?」

そろそろ敵は、こっちのやり方に気づいてくれたか。徹底的にメモをとって、敵の陳述の揚げ足をとっていく作戦に。さっき自分が言ったことなのに、同意するのがとてもイヤみたいだ。

僕:「では、そんな「ないよりまし」の経験で「10段階の半分」の評価の…わたしの賞与が、蓮江さんと同じになってしまうのはなぜですか?ああ、乙第4号証を見てください」

またも沈黙。

僕:「答えられないなら、いいです」

僕:「もう一つ基本給のことで教えてください。この賃金台帳ですが、複写式になってますよね。複写になった控えを、きりとってぼくのほうにくれる、というものですね?」

砂:「そうやな」

…あ、認めたね?それが甘いのよ。

僕:「じゃ、乙第7号証を見てください。蓮江さんの給料の横です。2回にわたって、ぼくの基本給を18万円で計算しようとしてたじゃないですか!それをわざわざバツ印をして18万5千円にしてくれたわけですが、これは…だれが直してくださったんですか?」

砂:「妻が直したんやろ。もうええやろ」

ハイハイ。この辺のいい加減さを裁判官が見てくれれば十分です。こと給料の決定面では、これだけいたぶっておきゃいいでしょう。

つぎ。残業問題をなんとかする。

僕:「じゃあ事務所の仕事についてもう少しおたずねします。測量の作業には、ぼくもたずさわっていた、ということでいいんですよね?」まずok。

僕:「その作業には、補助者同士ででることが多かったですか?」

砂:「それがほとんどやったな」

僕:「そのとき補助者には、携帯電話を持たせてありましたか?」

砂:「持たせとった」

これでほぼ、罠は閉じられた。事業場外にでる従業員が無線電話やポケットベルを持っている場合、考え方としては会社は従業員の労働時間を統制できるという通達がでているのだ。愚か者め。

僕:「じゃあ測量にでて、1日現場にいることもありましたか。そんなときには何時頃帰ってくるんでしょう」

砂:「まあ暗くなれば作業はできんから帰ってくるよなあ。今くらいからもう夕方になっ…」

僕:「夏は日が長いですよ!」

余裕のふりして窓の外を振り返ろうとした砂上が石になる。沈黙5秒。とっさに放った一撃だったが、こいつはまさにクリティカル・ヒット!

なるほど時は午後3時すぎ。10月下旬の日は、既に西に傾きつつある…が、そりゃ今が晩秋だからだよ。

僕:「…つまり日が長い時期には、測量…『事務所のしごと』ですよ。これからの帰りが5時を回ることも『あった』んでしょうね?」

砂:「だろうな」

これで十分だ。あとは残業手当が仕事とリンクしない点をついておかないと、

僕:「そちらのご主張では、残業手当、というものはとにかく5時以降事務所の中にいて、タイムカードを打って帰ればその時間、なにをやっていても支払われるものなんですよね。」

砂:「そうや」

僕:「つまり、なんの義務もなく事務所に残っているのに対して、勝手にお金を支払ってくれるということですね。午後5時以降の『義務なき残留に対し、任意の給付をした』というんですよねぇ?」

砂:「そうだな」

決まった。この馬鹿げた陳述のキャッチフレーズは、「義務なき残留・任意の給付」だ。

僕:「そうすると労働者としては…あくまでそちらの主張で、ですよ。好きなだけ請求してもいいわけですが…」ここ!

僕:「まず乙第5号証から第3号証で、笹金さんの平成11年11月から平成12年1月までの残業時間を見てください。42時間から53時間の間ですね。さらに乙第2号証、1号証を見てください!平成12年2月にぼくと蓮江さんが辞めたこの時期以降、2,3,4月と笹金さんの残業時間が66時間から72時間、1.5倍に増えますね!人が辞めて仕事の負担が増えたこととは、関係ないんですか?」

砂:「それは笹金のことなんだから…こたえんでもええやろぉ?」

あ、怒ってる怒ってる。目をそらすなよほら!

ただここでは、「関係ない」とウソを突き通した方がまだよかったと思うんだな。ここで答えられないのはこっちの主張を認めたのとほぼ同じ。

僕:「じゃ、原告の尋問としては、以上です」

深い深い満足。向こうもまさか、日の長さをつかれるとは思っていなかっただろう。実際こっちもそんな形でカウンターアタックをかけることができるなんて、思ってもみなかったのだから。

原告主尋問

裁:「今度は裁判所から鈴木さんにお尋ねします」さあ、ここで何がくる?

裁:「平成11年10月に、基本給の支給額が9月の18万5千円から18万円になっていますよね。これについて、このときには砂上さんになにも言わなかったんですか?」

僕:「言えませんでした」

裁:「それはなぜですか」

…言わせてもらうよ。本当のことを。

僕:「砂上事務所では、毎朝補助者があいさつしても、砂上は補助者にあいさつをしません。また補助者については『スペアはいくらでもおるんやからな』といって消耗品扱いです。だから、争いになるようなことを言ってクビになるようなことは避けたかったので、恥ずかしいことですが言いませんでした。」

ふう。

裁:「なるほど」

ぼくの目がひいき目でないならば、裁判官の首は縦にうごいたように見える。

裁:「平成11年8月に砂上事務所の面接に、職安を経由して応募していますよね。砂上事務所に応募することを決めた理由、というのはなんですか?」

僕:「前働いていた芦葉事務所では雇用保険に入れてもらえなくて、解雇されて苦労しました。だから、今度は最低限、雇用保険がある事務所に入ろうと思って探していたんです」

裁:「給料の額というのは、応募に当たってあまり気にされていなかったんですか」

…これ、正直にこたえると不利なんだけど…でもウソはつけないんだよ。砂上と違ってね!

僕:「そうです。ただ職安の求人公開カードの範囲であればいいと思っていました」

裁:「鈴木さんは司法書士の資格を持っておられるということですけど、司法書士の事務所に就職しようとか、開業しようとは思わなかったんですか。」

なんか論点が苦労話みたいになってくぞ?

僕:「その当時は、土地家屋調査士との兼業で開業したいと思っていましたので、芦葉事務所では半年しか経験がありませんでしたから…もう少し他の行政書士や土地家屋調査士の事務所で実務を覚えたかったんです。開業しようにも、この業界で働いていてもお金はたまりませんので!」

裁判官対原告、双方苦笑いだ。

裁:「では砂上事務所のほかに、就職先を探してはいたんですね」

僕:「はい。実家の静岡県の司法書士事務所や土地家屋調査士事務所に面接に行ったり、三重県の四日市の行政書士事務所へも。でも全部落ちました。」

裁:「わかりました…では、平成12年2月2日、鈴木さんが解雇を言い渡された、というときのことを教えてください。」

きた!これを聞いてくれる、ってことは…

僕:「はい、2月2日の昼過ぎだったんですが、事務所にはそのとき私と奥さんしかいませんでした。他の人はみんな現場に行ったり役所に行ってましたから。奥さんが私に話しかけてきて、私の仕事のしかたとか、報告が少ないって言うことに砂上センセイが怒っている、というように言われたんです。そして、奥さんからは「無理していんでもいいよ」と言われました。「主人に謝っておいたほうがいいよ」とも言われましたが。…そのあと3時過ぎに奥さんが帰って、6時過ぎに砂上センセイが帰ってきたら、こちらが話しかける前に「鈴木くん辞めるんだな、今日までか」と言われてしまったので、どうしようもなくなってしまって。」

裁:「そのあと2月3日に仕事をした、つまりすぐ辞めたわけではなかったのですが、これはなぜですか」

僕:「はい、2月3日には、現場に出て境界に入れる杭打ちの作業にでる予定があったからです。ぼくが抜けてしまうと、蓮江さんと笹金さんだけでの作業になってしまうから、最後に迷惑がかかるといけないと思って、砂上センセイにお願いして1日だけ延ばしてもらいました」

裁:「では、その解雇されるにあたって、他に思い当たる理由がありますか?」

きた!これも言わせてもらうよ!

僕:「はい、12月の末頃でしたけど、既に役所に出していた開発許可の申請で…工事業者にミスがあって、ぼくが作って出した図面を出し直さなければならなくなったことがあったんです。そのときにお客さんとセンセイと一緒に打ち合わせしていたんですが、その席でセンセイからその図面をごまかして提出するように言われて、それを拒否してしまったんです。そのあとから急にセンセイの態度が冷たくなっていったから、直接の原因はそれだと思います」

裁:「解雇された後はどうされたんですか?」

だからこれも苦労話になってしまう?…まあいいか。

僕:「ええと、前の年に芦葉にクビにさせれてたので、クビにされるのはもう慣れましたから岐阜と桑名と津島の職安をすぐ回って…

裁:「あ、簡潔にお願いします」

裁判官が苦笑いでさえぎる。おっとっと。

僕:「はい、結局職安でアルバイトの仕事を見つけて2月から3月はじめまで、そこで働きました。そのあと少し芦葉事務所の仕事を手伝うよう頼まれたんで3月の後半はそれをしましたが、お金の支払でトラブルがあって、(いかんいかん、また話がそれる)そのあと4月に今の会社に入りました」

裁:「今の会社では何をしていますか」

僕:「工場で、スイッチの検査をしています。夜勤です」

裁:「わ、かりました…」

ふうーん、とでも言いたそうだ。さすがに司法書士試験に受かって工場で夜勤で1年半以上、というのは意外だったかな?

裁:「では最後に、この訴訟を起こすことを決心された直接の理由はなんですか?」

きたきたきた!最後に思いっきりきた!この裁判官、最高だ!

僕:「はい、さっきも話しましたが芦葉事務所と砂上事務所でクビになって、そのあと芦葉事務所でまたトラブルになったので訴訟を起こしたんですが、そうするまでに労働法をいろいろ勉強しました。そこで…目からウロコがおちた、というのかな…自分がいままで何も知らなくて…そのためにこの人達に何も言えなかったし何もできなかった…それがすごく腹立たしかったし悔しかったんです!それが一番大きな理由です」

裁判官の目をしっかりみて話ができたと思う。

向こうもこれは、メモはとらずにしっかりこっちを見て聞いてくれている。

裁:「では砂上さんの方から鈴木さんになにか聞きたいことはありますか」砂上はピクリともしない。波田弁護士があわてた調子で乗り出してくる。

原告反対尋問

波:「ええ、先ほど被告側でも尋ねたんですが原告さんの訴状14ペーシ(この人もペーシと言うんだね。)によれば、この訴訟にかける思いがいろいろと…書いてあるんですが、この中に砂上さんが支出した、内容証明郵便作成報酬をまるごと無駄にしてみせるといういうのが書いてあるんですが、つまり原告さんが訴訟を起こした目的は金銭の請求とは別のところにあるんじゃないんですか?」

ふン!

…思わず感情が、鼻息に出た。丁度いいからそのまま睨みつけてやる。どうせこの裁判もあとちょっとで終わり、この弁護士も睨み納めといったところだ。
弁護士はこういうことを平気で言うからイヤなのだ。

僕:「で・す・からぁ、私が訴訟を起こした理由は今言ったとおり、です。でもって、もちろんお金の請求も、あるに決まってるじゃないですか!」

波:「そう…ですか。最後に被告に尋ねていいですか?」

裁判官に目をやる。波田弁護士なかなか、仕事がくどい。

波:「まず鈴木さんが芦葉…行政書士と訴訟になったのは知っていましたか?」

砂:「知っていました。こういう業界ですから、聞こえてきます」

波:「どういったことで訴訟になったんでしょう?」

砂:「雇用保険がどうとかこうとか…」

これが聞きたかったのか?わけわからんぞ。まさか波田−砂上間ではこの話、出てなかったの?

波:「はい。では裁判所や原告に話しておきたいことはありますか?」

砂:「…ありません」

波:「ではこちらも以上です」

裁:「では双方の尋問が終わったことになりますが、もう裁判所に話しておきたいようなことは、ないですね?」

さすがに、被告席のろくでなし二人まとめて4階から落っことしていいか、とは言えまいな。
ただ、裁判官の心証としては終始こっち有利だったように見えるんだよ…

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