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2.司法書士はなにをしていいのか・悪いのか(職域)

2.1.社会保険労務士という人たち

彼らは何をしているのか?労働紛争に関与できるのか?

昔からある、業務の一大分野
 労基署・職安・年金事務所への提出書類作成

関与者が増加してきた分野
 補助金受給申請・労務に関するコンサルティング

当然、主たる依頼者は企業である。

個人から依頼を受ける分野
 年金相談・年金裁定請求
 労働相談・あっせん代理
 これらを専業にする例は多くないが、増加しつつある。

社労士法ではどうなっているか?
・社労士の独占業務
 書類作成および提出代行(社労士法第2条1項1号・1号の2・2号)
 社労士の書類作成業務は、提出先官庁ではなく書類作成の根拠となる法律(労働基準法、厚生年金保険法など)で規定されている。
届出・審査請求における主張・陳述についての代理(社労士法第2条1項1号の3)
 『事務代理』と呼ばれる。

・特定社会保険労務士による、あっせん代理(社労士法第2条1項1号の4~6)
 あっせんの手続に関する相談、申立書作成、手続きにおける紛争当事者の代理を含む。裁判外での代理ではあるが、『手続』に依存する点が司法書士と大きく異なる。
特定社労士は社労士合格後、さらに研修をうけて合格し、名簿に付記を受けた社労士のこと。あっせん申立に際して、申立人あるいは相手方の代理人になれる。権限は、司法書士の裁判外代理権より広いことも狭いこともあることに注意。
この相談は事件性があっても当然可。
あくまであっせん申立を前提とする場合に限られる。

・独占ではないが可能な業務
 労務管理の相談・年金相談(社労士法第2条1項3号)
 この部分の相談は社労士の独占業務ではない。
事件性がある場合の法律相談を可能とする規定ではない。
無資格でも労務コンサルタント業務は成り立つし、税理士が経営指導をしながら労働分野のコンサルティングを行うことも可能。

2.1.1.社会保険労務士の相談

 社会保険労務士ができる書類作成・手続きに関する相談は、あっせん手続きに関する相談を除いて司法書士(正確には、社会保険労務士ではない人)が実施することへの規制がない。

 私見であるが、司法書士が一般的な意味で(紛争の内容を離れて)労基署・雇用保険・社会保険関係の制度や手続きについて相談者に説明しても、特に問題がない可能性が高い。
司法書士があっせん手続きに関する相談を行うことは、事案が簡裁代理権が利用できる範囲内であれば当然可能。

2.1.2.社会保険労務士の『代理』権

事務代理、という特殊用語
 社会保険・労働保険関係の手続きについて主として使用者を代理して、届け出先官署への説明・申立の訂正に当たる代理。単に官署に書類を持参する使者とは異なる。
 労働紛争では、本来なら使用者がなすべき被保険者資格の得喪関係手続(離職票発行など)を懈怠した際に責任追及の対象になる。法違反による処罰も一応ありうる。
ただし、企業側から依頼を受けて書類提出にあたる社労士がつねに事務代理を行っているわけではない。

あっせん申立の代理
 特定社会保険労務士は、都道府県労働局等へのあっせん申立から終結までの間だけ、あっせん申立人・相手方の代理人として裁判外で『和解契約に関する交渉』が可。
ただし交渉ができるだけなので、和解契約はあくまでもあっせん手続きや認証ADR機関が開く期日で成立させる必要がある。
民間ADRの手続きについても代理は可能であるが、この場合60万円を超える事案は弁護士との共同受任を要する。

 上記のとおり『あっせん手続きの期間中だけ発揮でき、契約成立に向けての交渉だけが可能な』代理権であるが、不当解雇等で金銭に換算できない事柄を扱うあっせん申立がなされており、その結論が出るまでの間だけは、社労士が司法書士より広い権限を持つ=解雇の有効無効を争う能力を持った代理人として現れる可能性がある。

 司法書士の代理権では、期間の定めのない労働契約における解雇の当否(地位確認請求になる事案)について和解をなすことができないため、その局面では社労士のあっせん代理権のほうが広い権限をもつ。

※解雇そのものの効力を争わず、解決金・慰謝料のみを請求する事案ならば司法書士はどうか?

参考 社会保険労務士法第2条1項

1の4.【厚生労働省所管機関のあっせん等手続きの代理】
個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会における同法第5条第1項のあつせんの手続並びに雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第18条第1項、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の5第1項及び短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第22条第1項の調停の手続について、紛争の当事者を代理すること。

1の5.【都道府県労働委員会のあっせん手続きの代理】
地方自治法第180条の2の規定に基づく都道府県知事の委任を受けて都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第1条に規定する個別労働関係紛争(労働関係調整法第6条に規定する労働争議に当たる紛争及び特定独立行政法人等の労働関係に関する法律第26条第1項に規定する紛争並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)をいう。以下単に「個別労働関係紛争」という。)に関するあつせんの手続について、紛争の当事者を代理すること。

1の6.【認証をうけた民間ADR機関の手続きの代理】
個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が民事訴訟法第368条第1項に定める額を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る。)に関する民間紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律第2条第1号に規定する民間紛争解決手続をいう。以下この条において同じ。)であつて、個別労働関係紛争の民間紛争解決手続の業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として厚生労働大臣が指定するものが行うものについて、紛争の当事者を代理すること。

社会保険労務士法第2条3項

3 紛争解決手続代理業務には、次に掲げる事務が含まれる。
1.【手続きに関する相談】
第1項第1号の4のあつせんの手続及び調停の手続、同項第1号の5のあつせんの手続並びに同項第1号の6の厚生労働大臣が指定する団体が行う民間紛争解決手続(以下この項において「紛争解決手続」という。)について相談に応ずること。
2.【手続き期間中の和解の交渉】
紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に和解の交渉を行うこと。
3.【あっせん案等にしたがった和解契約の締結】
紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約を締結すること。

2.1.3.社会保険労務士による労働審判手続『支援』

社労士自身、自分たちがなにをしていいのかわかっていない可能性がある
→裁判書類作成の相談が司法書士法第3条1項5号で規制対象になっていることに気づいていない?
半ば確信犯的に労働審判手続への関与を標榜する社労士事務所もあり、そうした社労士を招いて研修を開いてしまう司法書士会支部もある。

ともあれ、この人達が事実上労働審判手続きに関する本人申立の事例を蓄積している実情はある
→一般市民からみた印象としては、社労士による関与に似た方向で(主に書類作成で)司法書士も関与をせざるを得ない。いい悪いはともかく、参考にはするべき。

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2.2.司法書士の法律相談

 司法書士法3条1項7号のおさらい
①紛争の目的による限定『(金銭に換算でき)140万円を超えない』
②申立先による限定『地裁への申立にならない』
③実際の事案に限る限定『現に起きている紛争のみ』
 これらが法律相談可能。

地裁と簡裁の手続きが選択できる紛争ではどうか?

 地裁の手続きを選択する事案について、法律相談の限界に関する問題は多重債務に関する相談でも発生していると思われる。
ただし、多重債務問題より手続の選択肢が多いのが問題。

例:50万円の未払い賃金あるいは解雇予告手当の請求で選択可能な、初動での裁判所における手続

地裁への申立=法律相談不可になるもの
 労働審判(この手続きは、請求額不問)
 通常訴訟(事案の複雑さを理由に、地裁に直ちに提訴する・移送される)
 一般先取特権の実行(債権等差押命令申立)

簡裁への申立になるもの
 通常訴訟・少額訴訟・民事調停・支払督促・仮差押

 ある目的を実現するために、最初に選択可能な手続きは常に複数ある。しかもその一つは地裁での手続き=労働審判になるのが特徴。手続きの開始に際して、労働審判と通常訴訟が常に選択可能になるため。労働審判手続きが司法書士の法律相談圏外にあるため、手続きの推奨方法が一層複雑化する。
→原則的かつ安全な解決方法として、労働審判手続きの書類作成に先立って「弁護士による法律相談」を推奨してしまう。法律扶助で利用可能な3回の相談援助のうち1回で弁護士を経由させる、など。

 不当解雇に対してその無効確認・復職を真剣に争う大紛争の場合のみ、事実上は賃金仮払い仮処分+通常訴訟しか選択の余地がなくなってくるが、これ以外の労働紛争では常に労働審判の利用を視野に入れて対応することになる。

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2.3.司法書士の代理権

 上記の法律相談ができる事案で代理権が使えるが、裁判外では『和解契約を締結すること』の代理ができるのみ、であることに注意すべき。使える局面は社労士の代理権より広いが官公署への手続きを含む依頼人の法律事務全般の代理ではない。

2.3.1.誰に対して使う?

・紛争の相手方および、その代理人
・裁判所・法務局以外の官公署に対しては?
 個々の手続きによるが、労働保険・社会保険・労働基準法関係の手続きでは実際に書類を作成した場合、社労士法第2条1項1号に抵触。職安・労基署等へ依頼人と同行し事情を一緒に聞くのは可能なことが多いが、特に法的裏付けがあるわけではない。

・訴訟の証拠収集の一環として、官公署に情報公開請求(そのほか、委任をうければ誰でも可能とされている行政手続き全般)を行う場合は行政書士法に抵触するか?
 私見であるが、訴訟代理人として行う場合は抵触しないと考える。
というより、証拠収集が自力でできない訴訟代理人の存在が考えられない。
※この申立自体はかんたんなので、依頼人に手続きを教示して実行させるのが安全で手軽。
・倒産・執行関係の裁判書類は、司法書士を代理人とする記録閲覧申請不可  裁判所により、本人と同行しての閲覧・写真撮影を可とする=依頼人の『補助者』として記録の謄写にあたる。

2.3.2.どんな局面で使う?

○あくまで『金銭上の請求に関する紛争』においてのみ

労働側から解雇無効・復職を要求する内容証明が来たら
 →使用者側代理人としては対応不能
不当解雇ではあるが、復職は求めず慰謝料100万円のみの支払いを要求する内容証明が来たら
 →対応可能である可能性が高い。
  その場合でも、代理人として和解条項に解雇の効力を記載する場合は注意が必要
雇用保険未加入の使用者に対し、加入手続きを行うよう求める内容証明を使用者に出せるか
 →私見であるが、おそらく不可。
 手続き懈怠そのものは労使間の民事上の紛争ではないため。
 加入しない状態を続けた場合、それによって発生する損害の賠償を求める予定、という趣旨ならおそらく可。

○相手側の代理人に対して、司法書士が代理人として行動することの可否
相手側の代理人が弁護士である場合→要求の内容が、金銭に換算できない事柄を含むか否かで分かれる。復職の要求など、金銭に換算できない場合は対応不可。
会社側代理人が弁護士で、労働者を懲戒解雇したと通知してきたのに対してその無効を通告できるか
 →普通解雇に該当する・解雇撤回を求めるとの主張は不可。懲戒解雇の撤回を求めず、即時解雇に対して解雇予告手当の請求を行う場合は可能、という結論になる
 使用者に代わって雇用保険被保険者資格喪失の手続きをするべき地位にありながら行わない(遅滞している)事務代理権限を持つ社会保険労務士に対しては
→手続き実施そのものを要求することは使用者に対するのと同様できないと考えるが、手続きを行わなければ損害が発生するため損害賠償請求する、と通告することは一応可能
 ※実際にそうした請求で訴訟が維持できるかは不明である。
  下級審に積極消極の両例あり。

 あっせん代理手続き中であり、代理人として現れた特定社会保険労務士に対してはどうか
→この場合、その社労士は有効に代理ができるので、代理人としての要求の内容にしたがって判断する。弁護士に対するのと同じ。

まれに、あっせん等の手続きを離れて勝手に代理人として振る舞おうとする者がいる。これは不可であり、そう指摘してよい。

代理人として行動しようとする場合、まず
『その要求は、お金に換算できているか』
『金銭に換算できない行為や意思表示を求めたり、求められたりしていないか』
=訴状を書いた場合の請求の趣旨を落ち着いて考えれば間違わない。

2.3.3.司法書士は法律相談で『解雇無効』を判断できないか?

常に不可能、というわけではない。

不可能なもの
・労働者が『現在、労働契約上の地位を有すること』の確認を求める利益があるもの
 ①期間の定めのない労働契約で、復職を求める場合
 ②期間の定めがあるが、期間がまだ満了していない場合
・懲戒解雇の無効を主張し、普通解雇であることの確認を求める利益があるもの
(離職票記載の離職理由に異議を述べ、職安が正しく事実認定できない場合)

可能なもの
・期間の定めのある労働契約で、期間が満了した場合
 この場合は、経過期間分の賃金の請求をする給付訴訟になる(過去において労働者の地位があったことの確認を求める利益がない)ため請求額140万円以下であれば可。
・解雇の撤回・復職を求めず、単に慰謝料の請求をする場合
・懲戒解雇とされた事案で、労基法第20条1項の解雇予告手当の請求をする場合
(有効な懲戒解雇≒労働者に重大な責任がある事実は、抗弁に回る)

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2.4.作りやすい裁判書類・そうでない裁判書類(よくある依頼の中から)

 司法書士が可能な『裁判書類作成』の範囲でどんな書類が作成できるのか?

※実は講師も大部分の事案で、そう複雑な法律的判断を行ってはいない。
 むしろ事実を丹念に立証する・書類をよく読んで敵側の(事実に関する)主張を弾劾しているだけだということが多い。

作りやすくて収益性の高いもの
(労働者側)
解雇無効を争う、労働審判手続申立書
 解雇理由が不当であればあるほど司法書士に向く。中小零細企業の解雇事案は、ほとんどこれにあたる。
 労働契約締結の事実のほか不当な解雇に至る事実を整序して記載すればよく、申立書が受理されてしまえば裁判所主導で解決金を得る和解に結びつきやすいため。
 あくまで解決金目当てで申立をするということと、市販の書籍など(一般市民の法的常識)に基づいて解雇が無効である可能性が高いことを依頼人が理解できている必要がある。
 書類作成の手間はあまりかからないが、目指す成果と選択する手続きの決定が重要。

月給制労働者の基本給未払い事案の訴状・労働審判手続申立書
 月給20~30万円台の賃金未払いが数ヶ月続いた結果、請求額が60万円を超える、という相談はよくある。
 残業が発生していない(立証できないため請求しない)のであれば、比較的シンプルに数十万~百万円台の請求が成り立つ。 有期雇用で解雇の無効を主張し、残存契約期間ぶんの賃金を請求する場合にもこの類型になる。
  時間外労働が発生していて請求可能である場合はそれと同時に請求すべきだが、残業代請求の複雑さにつられて全体的な解決が遅れることがある。

(使用者側)
調停に応じる方針に向かって意思決定できた場合の、労働審判手続の答弁書全般
 代理人をつけてあれこれ抵抗することは金の無駄だ、と使用者側が理解できた場合に限られるが、紛争解決コストの最小化に寄与する可能性が高い。
 この場合、事実関係を簡潔に認否する一方、調停に応じる意向とその条件・経営状況(支払い能力)を簡潔にプレゼンテーションするのが基本方針となる。
 この場合でも解雇理由たり得る問題行為の指導記録・残業代の計算方法など書類によって確実に使用者側有利に主張立証できる点のみ、精選して提示することは必要。
 会社担当者の陳述書をあとから作って解雇理由を書き並べてみたくなるが、ほぼ無駄。

解雇を巡って金銭解決の意向がある場合の、労働審判手続申立書
 使用者側から解決金を払って、労働契約の終了を目指すもの。
 『(労働者から)やられる前にやってしまえ』というものではあるが、申立側に回ることで十分な準備期間が確保できる利点がある。
 使用者側でこの手続きを好む弁護士もいる。社労士会の研修で聞く。

作りやすいが少額の請求(報酬)にとどまるもの

(労働者側)
退職後、最後の一ヶ月分程度の賃金・解雇予告手当請求事案の訴状
 講師の事務所への相談として多い。請求額は10万円台~30万円台になるため訴訟代理を提案せず、本人訴訟を推奨することになるが、逆に本人訴訟にしても十分シンプルなため、書類作成に徹してよい。

 聞くことがわかっていて過去の事例の訴状がたまってくれば、書類作成作業時間もかなり短縮されてくる。
 解雇予告手当についても、平均賃金計算用のワークシートを一つ作ってしまえばあとの記載は定型的であるが、依頼人には労働審判の利用と常に比較して手続きの採否を決めてもらう必要がある。

(使用者側)
簡裁で和解に代わる決定・少額訴訟での分割払いを命じる判決を求める答弁書
 これも使用者側で『無駄な抵抗はしない』という意思決定ができた場合に限られる。
 分割払いの決定・判決を得るだけなら、使用者側は代理人も当事者も出頭不要。
答弁書一枚出せば用が済んでしまう。
原告が専門家の支援を得ずに提訴した場合、裁判所が強引に原告を納得させてしまうことがある。
※ある程度真剣に分割払いの獲得を目指すなら、会社の経営状況を簡潔に立証し、誰か決裁権ある(通常は決裁権がなくても、和解に応じられる範囲を指示してある)担当者を許可代理人として出頭させることを推奨。

-上記の申し立て書類は、本文数ページで済む-
(以下、すべて労働者側)
慣れれば分業に適するもの
月給制で平社員の残業代請求事案の訴状・労働審判手続申立書
 各労働日で勤怠時刻を入力しなければならないが、これの入力を依頼人にしてもらう、という方法を採る訴訟代理人もいる。単純作業が大きな部分を占めるという点では過払い金の請求に似るため、補助者が入力することが一般的。
受託にあたっては相手の反論をよく予想して、下記のような事案にならないことを見切っておく必要がある。
就業規則に、所定労働時間について独自の規定があったり割増賃金に含まれるのか不明な手当がある場合には、これらについて適切に処理する必要があり、真剣に取り組むほど煩雑化する。

つらい目にあうことを覚悟する必要があるもの
管理監督者や裁量労働制を導入している状態での割増賃金(残業代)請求  賃金計算期間が長ければ訴状作成までに、賃金計算で多くの作業を要する。
訴状提出後には会社のメンツや他の従業員への波及を懸念するためかほとんどの場合弁護士が着き、反論が延々と繰り返され、準備書面をひたすら作ることになる。訴訟活動の大部分は『働き方の実情』を丹念に述べていくものなので、依頼人との共同作業で書類を作っていくのが好きな人にはよい。
判決まで行ってしまう(証拠調べをおこなう)場合、特に鍛えられるが特に儲からない。

使用者側が労働者性を争うすべての請求
 これも反論が延々と繰り返され、準備書面をひたすら作ることになる。
こちらも『働き方の実情』を丹念に述べていくのが準備書面作成の基本方針なので、なにか高度な法律構成で相手を論破する、ということにはならない。

特に労働者側の場合、地裁事案であっても一般市民が持っている法的常識に依拠して書類作成できる可能性が高いのが特徴といえる。
書籍・報道・インターネット等による労働法関係情報の一般化
→『法的常識』の継続的拡大・深化が期待できるため。

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2.5.まとめ(講師の私見)

あくまで私見であるが、『注釈 司法書士法』(小林昭彦・河合芳光 テイハン)に沿って『民事に関する紛争』『簡裁で民事訴訟法の規定による訴訟手続きの対象となる紛争』『目的の価額140万円以下』の三要件を満たすか否かで判断すると、次のようになる。

2.5.1.司法書士の法律相談として、やってはいけないと考えられるもの

解雇事案で解雇の撤回を求めるために、解雇の効力を判断すること
懲戒処分の無効確認請求をおこなうために、懲戒処分の当否を判断すること
 上記はいずれも、金銭の請求を行う紛争ではない

総額で140万円を超えることがわかった場合の、割増賃金の算定
 労働者一人につき、合計で140万円を超える賃金・退職金不払いも同じ

未払賃金120万・解雇予告手当で30万円の請求をしたい労働者に対する法律相談
 二つの請求の片方を棚上げしたらどうか考えてしまうが、脱法または相談過誤に当たらないか注意を要する。

雇用保険・社会保険の扱いについて、これらの法律の解釈・適用について積極的に判断を行うこと
 雇用保険法・健康保険法・厚生年金保険法はいずれも、国(保険者)と労働者(被保険者)の関係または国と使用者の関係を律する構造をとっている。仮に使用者が適切な手続きを怠っていても、そこには使用者の国に対する義務違反が存在するだけで、労使間での金銭に換算可能な『民事上の紛争』が直ちには発生しているとはいえない。したがって、司法書士が可能な民事上の紛争に関する法律相談には該当しない可能性が高い。
 使用者が保険関係の手続きを適切に行わなかったことを理由にして、不法行為あるいは労働契約上の債務不履行等による金銭上の請求を使用者に行いたいという労働者が現れた場合には、その金銭請求の当否を判断するに際して雇用保険法等に関する法律相談をすることは差し支えないと考える。

労働審判手続の利用のみを前提とする法律相談
 相談者の意向として労働審判=地方裁判所での手続きしか考えていない、ということであれば法律相談不能と考える。少なくとも労働審判手続きについて手続きの見通しや労働者の有利・不利を解説したり主張立証の方針を示すことはできない。
労働審判を選ぶか簡裁通常訴訟を選ぶか考えている、という場合には簡裁通常訴訟を選ぶことを前提として法律相談が可能と考える。

2.5.2.司法書士の法律相談として、差し支えないもの

未払賃金立替払制度
 国からの金銭給付を労働者が得るものであるが、これにより労働者と使用者の金銭上の紛争(賃金未払い)を解決する面を持つ。したがって未払賃金立替払制度の適用可否・申請方法等の具体的説明を含めて法律相談は可能と考える。

労災保険法の解釈・適用
 同法は、もともと使用者に労働者に対する労災補償(金銭の支払い)を命じた労基法第八章を具体化するために作られている。労災保険法に基づく給付がなされることで、労基法第八章の金銭支払義務が消える関係にあるため、差し支えないと考える。

不当解雇事案で慰謝料の請求をするために、解雇の効力を判断すること
 不当解雇に伴う慰謝料請求そのものは民事上の紛争であり簡裁通常訴訟の利用も可能なので、その前提として解雇の当否(理由なき解雇という不法行為の成否)を判断することは可能と考えざるを得ない。懲戒処分についても同様。
→だったら解雇無効確認+経過期間分の賃金支払を請求せよ、という考え方に対し、有効な反論が難しい。推奨できない。

総額140万円を超えない割増賃金請求を行う場合の、請求の当否および算定
※そのほかの賃金・解雇予告手当・休業手当等の金銭上の請求についてはすべて可。
 間違えないように判断しないと、専門家責任を問われる可能性がある。

懲戒で減給された賃金の支払いを請求するために、懲戒処分の当否を判断すること
 結果的には金銭の請求になるため。
処分撤回(無効であることの確認)を求めるための判断は不可。

2.5.3.講師から一言

平成23年3月に出た『簡裁訴訟代理と手続の基本』(第一法規)の著者は弁護士および地裁・簡裁判事らですので、論調としては司法書士業界から離れた立ち位置にあるはずです。それだけに注目を要します。

この中に、気になる箇所がありました。
『(売買代金債権額が、法律相談中に)140万円を超えた場合、従前からの5号相談に切り替えればよいと考えられるかもしれませんが、先に述べたように5号相談と7号相談はその性質が全く異なるものですので、そのようなことはできません』(簡裁訴訟代理と手続の基本 19ページ)

つまり労働紛争では、解雇予告手当の請求に関する法律相談に来た労働者にその解雇が無効な解雇に該当する可能性を助言し、その後もし労働者が地位確認請求労働審判に関する書類作成の相談を希望したら、何らかとてもわかりやすい方法でいったん『7号相談』を打ち切り、『5号相談』に切り替える必要があるかもしれません。この見解が一般化するかどうかについて、注意を要します。

※講師の事務所では、いったん弁護士による法律相談を推奨して相談を打ち切り、その後に書類作成の相談を再開するようにしています。

一方で同書では、委任事務の終了段階での注意義務として『訴訟委任を例にとると、

①敗訴判決があった場合には、弁護士としては、上訴について特別の授権がないときであっても、「判決を点検し、依頼者に対して、その判決の内容及び上訴したときの勝訴の見込み等について説明、助言すべき義務」があります。また、

②勝訴判決があった場合には、「依頼者が不利とならないよう、執行方法や回収不能の場合の税務処理等について教示すべき義務」があります。司法書士も同様の注意義務があります』(簡裁訴訟代理と手続の基本 52ページ ①②・下線は講師による)

 としています。この文章が①の記載で対象を弁護士に限定し、②の記載では司法書士の存在を含むものとして意図的に書き分けられていると考えてよいなら、執行方法(少額訴訟債権執行を除いては地裁における手続き)や税務処理(少なくとも、民事上の紛争を直接解決するものでない行政上の手続き)について、司法書士としてもなんらかの『教示』が可能だということは否定されていないことになりますし、むしろ必要とされているように読み取れます。

こうした教示が可能なら、雇用保険や社会保険の制度について教示を与えることも可能だと考えてよいでしょう。
ただし、その教示を可能とする根拠が示されていないところが少々不安です。

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このコンテンツは平成25年10月に、業界団体で実施した研修の教材です。
司法書士の研修のために講師として作成していますので、一般の方に有用でないこともあります。

個別の問題については、有料の相談をお受けしています。

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