労基署への申告の実情と会社側の対応相談室からひとこと

労基署への申告を、労働者側で検討する前に

労働紛争解決の手段として気軽に使えるようで実はそうでない、いろいろなところで人からよくすすめられる割に効果がないことも多い、というのがこの労働基準監督署への申告なのですが、その最大の理由として担当者たちがあまりにも忙しすぎることがあげられます。これは大都市の労基署で顕著な問題です。

必然的に一人一人の相談者にかける手間は少なくなりますので、動きが鈍くなってくるわけです。大都市の労働基準監督署に申告に行くよう相談者を指導すると、『労基署に行ってきました。申告は受け付けてもらえましたが会社側に呼び出しをかけるのは2週間後だと言われました』というような報告が相談者から入ってしまうことがあります。

労基署にいきなり相談に行っても、それが丁寧な労働相談として対応されるかどうかはわかりません。のらりくらりと給料支払いを渋る、あるいは電話にすら出なかったり呼出に応じないような経営者に対しても、今ひとつ対応が積極的でないこともあります。
賃金不払いをめぐる事案では、使用者が労働基準監督署の呼び出しをことさらに避けるような場合には書類送検へ動くよう通達もでているのですが…担当者たちに余力がありません。書類送検後の手続きとして処罰が期待できない実情もあります。

担当者に余裕がないなかで逆に相談者がふるいわけされるような現象も起きています。
具体的には給与や解雇予告手当の不払い事案について、労働基準監督署や労政事務所に相談に行ってもまず、相談者から(内容証明などで)請求を行って、それが無視されたら相談に来るようにと指導されるのは一般的です。

しかし初動の労働相談でどんな権利関係があるか(具体的にいくら請求できるか)は教えてもらえないため内容証明も送れない→だから労基署の申告も先に進まないということになっていた人がいます。まさに堂々巡りです。

もう一つ労働基準監督署の限界として、賃金不払い・解雇予告手当不払い・有給休暇分の賃金請求・割増賃金(残業代)請求といった金銭の支払いを請求する事案で『事実の調査を積極的におこなわない』という傾向があるように思えます。労働者からみれば、経営者のあからさまなウソに労働基準監督署が無力…そう見えてしまうかもしれません。

具体的には以下の反論が会社側から出てくると、労働基準監督署はわりとあっさりと手続きを打ち切ります。

労基署への申告に対する、使用者側の反論というより、ウソ

  • その労働者とは労働契約を結んでおらず、個人事業主として契約した
  • その労働者は管理監督者にあたる(サービス残業に関する申告をした場合)
  • その労働者を雇い入れた事実はない(労働者側に給与明細書程度の証拠もない場合)
  • 解雇を言い渡した事実はなく自主退職した(解雇予告手当不払いの申告をした場合)
  • 有給取得の届出をうけた事実はない(有給休暇中の賃金不払いの申告をした場合)

労働基準監督署が事実認定を積極的に行わないのは、上記の事例で労働者側の申告が奏功しなかったことから把握できる傾向です。上記はいずれも労働者と使用者で事実に関して言ってることがちがう状態です。こうした場合には労働基準監督署は双方の主張を超えて独自になにかを調査する、ということをあまりしないようです。

仮に労働基準監督署から会社側に是正勧告を出してもらえても、今度は

労基署の是正勧告の問題点使用者に有利になってしまうことも

  • 是正勧告の内容が労働者側の期待より貧弱(例:2年分の残業代不払いに対し、6ヶ月分の支払を勧告する)
  • 是正勧告の内容があいまいで、会社側がどうとでも有利に解釈できる(残業代を適切に計算し支払うように、などと漠然とした勧告にとどまる)
  • 労働者が求めた解決の内容とは関係ない勧告を出す(在職中の労働者には今後残業代を支払うよう勧告するが、退職した労働者については言及がない)

上記のような決着が図られることがあり、労働者側はその結論に納得したくないなら自分で訴訟を起こすしか選択肢がなくなってしまいます。

是正勧告書と情報公開請求これも、労働者側に不利

労働基準法違反について、労働基準監督署が使用者に交付する是正勧告書の記載は労働者側に写しをもらえないうえに情報公開されない範囲が広いです。このため労働基準監督署が是正勧告を行った内容が労働側に有利でも、労働側はその内容を裁判上で立証することが困難です。

一方で労働側に不利あるいは無益な是正勧告・指導だった場合には、訴訟になったら使用者側のほうから是正勧告書を書証として提出してくる、ということになってしまいます。

つまり労働基準監督署の是正勧告は、内容によっては以後の民事訴訟で迷惑あるいは邪魔な存在になりかねません。これを懸念して労基署への相談抜きに法的措置をとることもあります。

こうした問題に対策できれば、あるいはこうした限界について諦めて割り切れば、『ただで使える』『刑事処分につながる可能性がある』『匿名でできる』といった労働基準監督署特有の長所を発揮させることも不可能ではありません。特に訴訟にしたくても証拠が確保できていないような場合は、こちらのルートを活用していく必要があります。

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労基署の調査・臨検・是正勧告への使用者側の対応

ここでは小規模・零細企業の経営者を想定して、労働基準監督署担当者にどう対応したらいいかを考えます。

顧問の言うことが正しいとは限りませんセカンドオピニオンをとりましょう

当然誰かに対応策を相談するところから始めますが、相談先として当たり外れの激しいのは顧問にしているはずの社会保険労務士です。

事例としては、自分で作って納品したはずの就業規則を忘れて助言する・争いになっている月の賃金額を勝手に計算して離職票に記載し、労働者側に有利な証拠として逆用される・社長の代理人として労働者との交渉に割り込んでくる、といった問題を把握しています。

いつも労務のことを相談している士業やコンサルタントの方が、平時のつきあいでは問題ないようでも異常事態発生時にまともかどうかはわからないと考えて、セカンドオピニオンを取ることをまずおすすめします。
労基署の総合労働相談コーナーは使用者側でも無料での相談ができます。

訪問されるまえに、労基署に出頭しましょう

労働者側の申告を受けて始まる申告監督は、就業環境そのものに法違反の疑いがある場合(事業場内での労働災害など)を除いて、最初は関係資料を持って労基署に来署するよう求められることが多い印象があります。これは筆者が労働相談担当者として労働者側の話を聞いての所感ですので、労基署の業務の繁閑・その年の取り締まりの重点業種あるいは分野によっても異なるかもしれません。

出頭の要求に応じない場合は労基署担当者が事業場の訪問を試みる、というのは当事務所で聞く限り例外はないので、いずれは担当者と会って話をする必要があり無視できない、と考えておいてください。不意に訪問されるよりは、自分で準備してから労基署に行ったほうがいいはずです。いずれの場合も労働者名簿・賃金台帳など労基法の定めによって備え置くことを義務づけられている帳簿類を見せるよう求められるのが一般的なので、これを準備しておかないと帳簿備置義務違反で是正勧告が出ることになりかねません。

職場内調査はくれぐれも慎重に

法違反がなくても労基署が任意に選んだ事業場に監督に入ること(定期監督)は一応ありますが、一般的には労基署の調査が始まるまえに、労働者側から未払賃金支払などの要求が来ているはずです。場合によっては平行して労働局への助言・指導の申出やあっせんの申立を試みて失敗しているかもしれません。こうした行動と併せて、在職中にその労働者がどんな言動をとっていたか同僚等から事情を聞いてみることは当然してかまいません。

権利主張が強すぎる労働者は、職場内でも他の労働者に残業代請求や有休取得を勧奨したり、その一方で勤務態度に問題を発生させていることがあります。こうした問題社員が単独で行動しているだけなのか、ほんとうに職場(または経営者や職制)に問題があって行動を起こした労働者に共感が集まっているのか把握しておきましょう。一人でも合同労組に加入した労働者がいて、その労組から団体交渉の要求があった場合は団交そのものには応じなければなりません。

どのような状況であれ、申告に踏み切った労働者を悪く言ったり従業員に対して労基署の調査に事実と違うことを告げるように求めてはいけません。それが相手側に発覚したときの打撃が大きすぎるからです。残念ながら、まわりの従業員が常に社長の味方であるとは限りません。指示や会話が録音されている可能性も想定しておきましょう。会社側の弁護士が社長に対して不当解雇のやり方を指導したメールが労働者側に流出した、という事例を見たこともあります。みだりに人を疑うべきではありませんが、相手側に内通される可能性は認識して慎重に行動しましょう。

現に在職中の労働者が労基法違反を労基署に申告している場合、労働者からは具体的な要求がなく労基署からも申告を受けての監督ではないような説明で(誰の何が問題なのか、明らかにしないかたちで)調査が始まることがあります。この場合でも、職場内で犯人捜しをしてはいけません。

労基署/労働者の見解が正しい、とは限りません

労働者側の要求の当否と職場環境を点検した結果、労働者側の要求(法違反の指摘)に応じる範囲が決まってきます。過大すぎる残業代請求など労働者側の要求に根拠がない場合はその証拠を示すことで、お金の支払いに関する是正勧告は出ないか少額にとどまることもあります。この場合でも、将来に向かって労働時間の記録を整備したり割増賃金の単価を適切に設定するなど、なんらかの違反について対応可能な是正を求められることは多いです。

あなたがまともな企業の経営者であれば、労基署の調査には逃げずに丁寧に対応するほうがよい結果が得られます。理想的には労基署への是正報告のほか、労働者側と個別に合意を結んで『申告のきっかけになった不払い等のほかに、労働者からも会社からも相手に何も要求しないことにする(債権債務が存在しないことを確認する)』といった合意をとりつけて書面を作成しておくと、後日さらに争いが発生することを防げます。逆に、そうした書面への署名捺印を無理に求めるとそれだけで紛争につながる可能性を高めます。

違法な風俗業あるいは投資詐欺を業とする会社などでは労基署からの追及を振り切ることを自慢する経営者もいましたが、当然ながら労働者のほうが定着しません。一般的にはおすすめできない対処法です。

労働者側に反撃してもかまいません

あまり多くない可能性ですが、賃金や残業代の不払いとその金額が問題であって会社側の主張が正しく、相手と話し合いができない場合は、会社側から労働者に訴えを起こしてしまうことも可能です。労働者側は残業代200万円が未払だと言うのに対し会社側ではどう計算しても80万円が上限だと考えて、差額120万円の債務が存在しないことの確認を求める訴訟あるいは労働審判手続きなどを申し立てることができるわけです。この場合、労基署の調査はほぼ止まります。

ただ、実際には経営者個人の能力や資質に問題があって裁判手続での反撃ができない・費用対効果として成功とはいえないこともあり、労務担当者のいない小企業の社長が想像するほどうまくいかないと言ったほうがいいかもしれません。

頼んで分割払いにしてもらってもかまいません

労働者側の言うことがまったく正しい、という場合はどうしたらいいでしょうか?
経営が苦しく賃金の支払を先延ばしにしていた、そのうちに未払額が100万円に達したところで労働者が労基署に申告した、というような場合です。

こうした場合、支払義務を認めて誠実に労働者側を説得して分割払いなどの条件を定めることができれば、労基署にはそれで一応解決した(是正が済んだ)ものとしてもらえることはあります。この話し合いは必ずしも私的に行わなければならないわけではなく、使用者側から民事調停を申し立てた事案もありました。弁護士を会社側代理人にして交渉するのは使用者側からの裁判手続きの利用より多く見かけますが、この人の態度に問題があって労働者側が態度を硬化させる、というのは当事務所ではときおり聞きます。

労働者側でみた会社側代理人の傾向として、無能な人ほど態度が悪いです。肩書きと恫喝で労働者をなんとかしようとするため、会話を録音されると一気に不利な立場に傾きます。ごくたまに相対する大企業の担当者・弁護士はスマートな方が多く、事案の行く末を見切ってから交渉に入ってきます。これらの点から、依頼人のあなたにも厳しい話ができる人や誰にも態度を変えないで丁寧な人を代理人に選任したほうがいい、と言えます。

以上を簡単にまとめると、労基署の監督にはいい専門家の助力を得ながら落ち着いて誠実に対応せよ、ということになるでしょう。特に小さな企業の賃金・残業代不払い事案では、即時に一括で全額を支払え、ということにはならないと考えておくだけでだいぶ気が楽だとは思います。

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当事務所では労基署への申告にもその後の裁判手続にも対応します

給料未払いでの労働基準監督署への申告や相談のデメリットとして、その紛争が民事訴訟をはじめ裁判所での手続にかけられた場合には労働基準監督署の関与が打ち切られることがあります。

しかし、社労士だけでは裁判手続に関与できず司法書士は労基署への申告に関与できません。

労働基準監督署への申告が必ずしも残業代や解雇予告手当の支払いといった形で解決するとは限らず、あくまでも「未払いのお金を全額払ってもらうこと」が目的である限り、最終的には民事訴訟を起こして請求する可能性も考えておかなければならないことはここで見たとおりです。

一人の法律専門家でこの2つの手続に当然に対応できるのは、資格としては弁護士だけということになりますが、当事務所は社会保険労務士と司法書士の兼業事務所です。
労働基準監督署には社会保険労務士として、裁判手続の際には司法書士として振る舞うことで、労働基準監督署への申告が目的を達しなかったとしても依頼人にとって連続したサービスをできるだけ安価に提供します。

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