訴訟の記録も、誰でも閲覧できます
このコンテンツと参考文献とで、裁判所に行って訴訟を傍聴して帰ってくるには十分な説明になっていると思います。皆さんにとって参考になる事件がたまたま見つかってしまう幸運な人もいるかもしれません。筆者も実は、お客さまを連れて傍聴に行った証拠調べで判決が気になる事件がいくつかあります。
そうした事件の内容をもっと詳しく知りたい場合には、訴訟の記録を閲覧してしまえばよいのです。民事訴訟が公開であることと関連して、訴訟に出される訴状や答弁書・準備書面といった主張活動に関する書類や、証拠の写し、判決や和解の内容、送達に関する記録はすべて、誰でも閲覧できます。
なお、誰でも閲覧できるのは『訴訟』つまり通常訴訟や少額訴訟の記録だけで、民事調停や労働審判の記録は第三者は閲覧できません。
なお、訴訟の記録であれば現在進行中の事件もすでに終結した事件も閲覧できますが、終結から5年立つと記録は廃棄されてしまいます。以下で閲覧の手順を説明します。
まず、傍聴の際に調べた開廷表から、目的の事件の事件番号、原告と被告の氏名をメモしておいてください。これが不明だと閲覧の申請がかけられません。
つぎに、大きな裁判所であれば『記録係』、小さな裁判所であれば書記官室(訴状等の受付)に行って、訴訟記録の閲覧をしたいと告げてください。受付にいる人に聞いてみてもかまいません。すでに終了した事件と進行中の事件とで、閲覧の申請を受け付ける部署が違うこともありますが、その際には担当者の指示に従ってください。
閲覧の申請には、手数料として150円ぶんの収入印紙、認印、身分証明書になる資料が必要です。閲覧申請書は『法廷傍聴に行こう』資料17のとおりで、書式中の『閲覧等の目的』はとりあえず『調査および研究』、『閲覧等の部分』は『全部』、『所要見込み時間』は、かんたんな事件なら『30分』と書いてもらえればよいでしょう。
申請書を出すと、少し待たされたあとでファイルに綴られた書類一式を渡されます。閲覧する場所は裁判所によって実にさまざまで、東京地方裁判所のように専用の閲覧室で何人もの人が閲覧しているところもあれば、書記官室の片隅で閲覧する裁判所もあります。政令指定都市にある簡易裁判所でも、閲覧の設備は結構貧弱ですが、堂々と閲覧していればよいでしょう。
閲覧の申請は、午前中なら9時以降、午後は4時半ごろまでに行うようにしてください。昼休みの1時間は受付されません。あくまでも閲覧をするだけなので、資料を撮影したり熱心に書き取ったりしてはいけません。メモを取る程度ならかまわないようです。
閲覧で見られるもの
訴状・答弁書・準備書面・証拠説明書
これから本人訴訟を考えている人なら、訴訟代理人(弁護士)がついている事案の訴訟記録を閲覧することで、彼らがどんなふうに書類を書いているのかを知ることができます。ただし、代理人のレベルも玉石混淆なのでそのまま真似たり信じ込んだりすることは危険です。まさに自己責任でお願いします。
陳述書
証拠調べが行われた訴訟では、尋問に先だって尋問される人の陳述書が提出されるのが一般的です。これも、他の証拠書類と一緒に閲覧できます。代理人がついていれば、実質的には代理人が作成することが多いので、どんな風に書いたらいいのか悩んでいる人には参考になるでしょう。ただしこれも品質は玉石混淆でして、反対尋問をくらって炎上する危険な陳述書、だらだら長いだけで役に立っていない陳述書も結構あります。あくまでも雰囲気を参考にするにとどめるのが上策です。
上記各書類に対する、裁判所によるチェック
訴訟において当事者が提出した書類は、当然ながら裁判官が中を見ます。見るだけではなく鉛筆や蛍光ペンでチェックしたり、短いコメントが入っていることもあります。裁判官が原告被告の訴訟活動の何に注目しているのかを早期に推測する貴重な手がかりになりますが、チェックを多用する裁判官と全然そうでない裁判官がいるようなので常に見られるものではありません。
判決正本あるいは和解調書
その訴訟がどう終わったのか、は当然読み取れます。なお、いわゆる秘密条項付きの和解(当事者は和解の内容を他人に言ってはならない、という条項がある和解)でも、その条項を記した和解調書はまるごと閲覧できてしまうため、事件番号と当事者名がわかっている人には秘密もなにもない、ということになります。裁判例の要旨と事件番号だけがウェブサイトや雑誌で公開されていて、判決の詳細を見てみたいというような場合もあるかもしれませんね。和解調書については、和解金を受け取る人の預金口座が書かれていることがあります。和解金を受け取る人にお金を貸しているような場合は、ここで預金口座を把握してしまう、あるいは仮差押をかけるなどの活用法が考えられます。
相手が同じ会社の場合の、その他証拠書類
たまたま自分が訴えようとしている会社がすでに提訴されており、その際に会社側からなにか証拠書類が出ていることがあります。こうした書類についてはコピーして帰ることはできませんが、書類が存在していることは明らかであるため、文書提出命令の申立に適する(そうした文書が存在しないというウソが会社側から出せない)ということになります。
口頭弁論調書
口頭弁論が開かれた日・出席当事者、裁判所がなにか質問や指示を出した場合にはその要旨がごく簡単に書かれています。同じ相手を訴えようとしている場合には、その相手が先行する他の訴訟で出頭してくるタイプの人なのかを確認するために閲覧します。地方裁判所で証人または当事者尋問を行い、判決で終結した訴訟(および、尋問があった期日以降何回かの期日を経て和解で終わった訴訟)では尋問の内容もまるごと記録に残っていますので、必要に応じて当事者が自分で閲覧したり謄写することもあります。
送達の状況を記した書類群(送達報告書・送達に関する上申書・予納郵便切手を保管する封筒)
これも、同じ人または会社を訴える事案で参考にします。その相手に書類がどのようにして届くのか(昼間でも受け取るのか、不在でいったん持ち戻りされるのか、所在不明なのか、本人が受け取るのか等々)が読み取れます。送達報告書からは、転居先・同居人や勤務先まで読み取れることもあり、相手の所在を探索しなければならない時には結構重要になります。
閲覧申請書
裁判所で記録の閲覧を申請すると、閲覧後にその申請書自体もおなじ訴訟記録に綴られます。
まったく無関係な訴訟の記録を閲覧するならどうだっていいのですが、たとえば労働訴訟で先行して同じ会社を訴えている人の訴訟記録を閲覧すると、間違いなく『閲覧したことの記録』が裁判所に残ることになります。会社の担当者も、その気になれば当事者として記録を閲覧できますから、これではうっかり閲覧できないですね。
もっとも、もし同行してくれるご友人等がいればその人の名前で閲覧申請してもらって、一緒に閲覧してしまうという手があるので、単純に閲覧申請すると申請書が保存される、とだけ覚えておけばよいでしょう。
