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債務名義とは・強制執行とは

差し押さえの手続きを始めるための書類=債務名義について

筆者の事務所は給料未払いをはじめとする労働紛争に労働者側で関与することを主な業務にしています。このため、労働者は債権者、すなわち『誰かにお金を請求できる立場にある(そして、その権利をまだ実現できていない)人』としてその債権を回収する方法を知るために筆者の事務所に相談に来ることになります。

こうした問い合わせのなかで、未払いとなったお金の回収のために会社の財産を差し押さえたいというお尋ねは検索でも相談でもよく見かけるようになってきました。

では、差し押さえとはどういうことを言うのでしょう?

当事務所ウェブサイトの他のコンテンツで述べていることと重複しますが、誰かに対してお金の支払いを求めることができる権利を持っている人(債権者)は、仮にその支払いがなされなかったとしても相手の家や会社に押し入ってめぼしい財産をかっぱらってくることはできません(実状を反映した言い方をすると、やったら犯罪として処罰されることがあるのでふつうの方にはおすすめできません)。参考図書では、自力救済の禁止ということばでこのことを説明しています。

では、かっぱらいがダメだとして、お金の支払いをしなければならない立場にあるのに自発的に支払いをしようとしない人に対して、その人(債務者)の意思を無視して権利を実現することは全くできないのでしょうか?

それをできるようにするために国家が設けた手続きが、広い意味での強制執行にあたる、と考えてください。ここでは『お金の支払いを得る』ことだけを考えていますが、お金の支払い以外のいろいろなこと(たとえば、借家の契約解除にともなう明け渡しなど)を、その義務を負っている人の意思を無視して実現する手続きの多くを強制執行といいます。

債権の差し押さえは、強制執行の一つです。裁判所から債権差押命令の発令を得て債務者が他の人に対して持っている権利(たとえば、他の法人=銀行に対して、銀行預金の払い戻しを受ける権利)を自分で使えないようにして(差し押さえて)、差し押さえられた権利の範囲で債権者の権利が満たされるようにする(預金残高の範囲で、差し押さえの申し立てをしたひとに銀行からお金が支払われるようにする)、そうした手続きを債務者の意思を無視して(協力がなくても、あるいは妨害しても)行うものだと考えておいてもらえればよいでしょう。

この手続きはいつでも誰でもできるわけではありません。裁判など所定の手続きを経て債務者に対する権利をもっていることが文書で明らかにできている債権者だけが始めることができます。

この文書=強制執行の手続きを始めることができる文書を、債務名義といいます。
債務名義には、つぎのものがあります。公正証書以外のものは、裁判所が関与する手続きを経てできあがる文書です。

  • 執行約款つき公正証書
  • 仮執行宣言つき支払督促
  • 調停調書
  • 調停に代わる決定
  • 審判
  • 和解調書
  • 上記と同じものとして、口頭弁論調書(和解)と標題がついている文書
  • 判決正本
  • 上記と同じものとして、口頭弁論調書(判決)と標題がついている文書
  • 訴訟費用額確定処分

このほかにもありますが、主に見かけるものはこのくらいだと思います。

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仮差し押さえ(仮差押)について

上記の各書類には、公正証書のように債務者と債権者(あなたとその相手)が合意して作るものや、判決のように相手と争った結果、債権者の主張が認められて作られるものがあります。いずれもこれらの文書ができあがるまでに相手が協力したり、そうでなくても債務名義を得るための手続きを始めたことを知る機会が相手に与えられている、と考えなければなりません。

そうした手続きを始めたことを債務者側に知られてから実際に強制執行ができるまでのあいだに、財産を隠されたり使われたりしたら債権者側は困りますね。
そんなときに利用を検討するべきなのが、仮差し押さえ(仮差押)です。

仮差し押さえは、債権者がこれから訴訟を起こす(最終的に、債務名義を得て強制執行を目指す)に先だって、債務者の財産について債務者自身が使ったり人に譲ったりすることを禁止しておくことを目的とする、差し押さえとは別の手続きです。

仮差し押さえの申し立てをおこなっても、債権者の権利がすぐに実現されるわけではないことに気をつけてください。銀行預金の仮差し押さえに成功したならば、その預金残高は債務者が引き出すことはできませんが、債権者に渡されることもありません。銀行が保管しておく、というのが、仮差押で実現できる状態になります。

その後、訴訟を経て勝訴判決(債務名義)を得て、差し押さえの申立をおこなうことで、仮差し押さえしてあった銀行預金を債権者に支払わせるようにすることができます。債務者の協力が全くなく、財産隠しが懸念される場合には、仮差し押さえの後に訴訟を起こし、その後に差し押さえをおこなうことによって債権を回収する、というのがかんたんな説明になります。

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Last Updated :2017-06-18  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.