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やれることは全部やる、取れるものは全部取る

「私は取れる請求は全部するというスタンスでのぞみます」

労働相談中に言われると一見威勢がいいのですが、実はヘタレな相談者が多いと筆者は考えます。

実は何ができるのか・したいのかがよくわからない・決められないのに欲望だけが先行している人がこうした言葉を口にします。
このため、実際に要する手間や費用を知った途端に「だったらやめた!」と今度は全面的に泣き寝入りする、ということもしばしば見受けられます。

…まるで子供です。年齢性別労働者経営者敵味方問わず、こうしたことを言ってくる人が普通にいてがっかりさせられます。

給料未払いなどの労働紛争では確かに労働者側が被害者になることもあります。使用者側に処罰されるべき状態が発生していることもあるでしょう。
だからといって、自分の権利を誰かに完璧に守ってもらえることなどないのです。少なくとも現代の日本では。

こうした世の中をどうにかしたい人は、法律を適用するより法律を作る=政治家になるか頼むかする方向で頑張ってみてください。
それがすぐにできない現時点では、目指す成果の実現までにかかる時間や費用や訴訟の勝敗等を勘案しながらどれだけのリスクをとり、あるいは費用を出して対処するか、始まった手続きのなかでどれだけ譲歩するか、といった微妙な、そして不愉快な調整や妥協が紛争解決には必須なのです。

しかし「全部欲しい」か「なにもいらない」の両極端で揺れる人は、そうした微妙な判断に耐えられないのです。

やれることを全部やるのは悪いことか、と考える人もいるでしょう。

かなり悪い、と言って差し支えありません。やれることを全部やるというより、「自分からみてやれそうなこと」を全部やると言っているだけだからです。ですので紛争解決に向けて必要がないこと、有害なこと、不利になることも実行してしまう、そのために後で対応が大変になったり選択肢が減ることもしばしばあります。

労働紛争では、不当解雇事案で解雇予告手当の請求と解雇撤回の要求を同時にする方がおられます。前者は解雇を有効とする考え方に基づき、後者は解雇が無効であるという認識に立つものですので両者は矛盾します。

本人で訴訟を進めているあいだに、筆者に準備書面作成の依頼をだしておきながらそれと並行して別の書面を裁判所に出す方もいます。中身がよければそれもいいのでしょうが、証拠もなく他の準備書面との関連もなく言いたいことを言っているだけで、全般的にその当事者の主張の信憑性を下げてしまいます。

せっかく提訴の前に和解して自発的にお金を払ってもらえそうになったのに、「相手から支払があるのは当然だがこちらは一切譲歩しない」などという対応をして交渉を破綻させる方もいます。その後で誰か専門家に依頼することになってしまえば、2割なり3割なりの報酬を支払わなければならなくなるので手取りの金額はむしろ譲歩しないほうが少なくなるかもしれません。

勝訴判決が取れて、これから相手の預金口座に差押えをかけられる、というときに、相手に内容証明を出して差押えを予告した、という方もいました。これは最悪中の最悪です。差押えのまえにわざわざ財産を隠すように相手にお知らせしたことを気づかないのです。そういうことに限って事前に相談なく実施してくれるという方もいて、頭を抱えさせられます。

筆者の考え方としては、どんな紛争でも初動の相談の段階から、

  • これから何が実現できたらいいのか(勝利条件の設定)
  • そのために可能なことはなにか(可能行動の探索)
  • そのなかから、実際に選択できるのはなにか(戦略方針の決定)
  • 選んだ手続きを、具体的にどう進めていくか(戦術行動の決定)

これらを上から順にできるだけ決めてから着手するのを理想としています。もちろん、「無駄だとわかっているがやってみる」とか、「依頼人や筆者が試行錯誤することを認める」ということもありますが、漫然とできそうなことを全部やる、どんな結果が出るかは裁判所の判断に丸投げする、などということは通常ありません。
少なくとも、理想的ではないのです。

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Last Updated : 2015-04-20  Copyright © 2014 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.