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依頼を受ける事務所があるか?
正しい方が勝てるか?
勝って債権回収できるか?それが通常訴訟の問題です

通常訴訟(裁判所での手続き)

管轄する裁判所(請求額で簡易裁判所か地方裁判所に分かれる)
請求額140万円以下の場合→簡易裁判所
140万円を超える場合・金銭の請求でない場合→地方裁判所
上記に応じて、訴える相手(被告)の
住所・法人なら登記上の本店・勤務先(給料支払地)などを管轄する地裁・簡裁に決まる
賃金以外に持参債務の請求を含む場合、原告の住所地を管轄する裁判所も可。

通常訴訟は「最後の手段」であることがそれ自体特徴かもしれません。賃金や残業代の請求でも不当解雇でも、労働紛争解決のための手続は失敗すればいずれ訴訟にたどり着きます。ここで負けたらもう救済はありません。

必要な実費(請求額・裁判所により異なる)
例 100万円の請求の場合 手数料 10000円(請求額で変わる)
予納郵便切手 6710円(名古屋簡裁の例)
被告が法人なら、その法人の登記事項証明書 600円
合計 17310円(裁判所で異なる)

申し立てを支援できる法律資格
弁護士主に訴訟代理人になる。書類作成のみ行う事例もある。
司法書士(当事務所)書類作成のほか、簡易裁判所では訴訟代理人になる。

正義が(当然には)勝てない手続き正義を語って負ける側にも原因があります

ここで負けたら終わり、だからといって正しい側が勝つとは限らないのが通常訴訟の、特に自分で訴訟を行う場合の大欠点です。
注意すべき点はいろいろあって、

  • 主張を記載した準備書面の提出など、手続の進め方が厳格に規制されているため、まず決まったとおりの手続を適切なタイミングでできなければどうしようもない
  • ある程度請求額があがると、弁護士や司法書士が相手側で代理人として出てくる可能性が高まる。
  • 職業代理人が積極的あるいは消極的に訴訟の適切な進行を妨げることがままある。
  • 代理人には、本人訴訟を行う一般人に無用の精神的苦痛を与える言動をとる者、法的に明らかに誤った主張を平然と持ち込む者、対処能力を失ってしまい書類も作れず依頼人の説得もできない者もあり、こうした問題行動には特に注意が必要。
  • 決着がつくまでの期間が無駄に長い。期日一回ごとの間隔が1ヶ月程度ずつ空く。
  • 訴訟の進行それ自体も時間がかかるのだが、特に被告側に妙に忙しく、期日をなかなか入れてくれない代理人がついてしまった場合、次の期日が2ヶ月後になったりと本人訴訟をする側はとてつもない迷惑をこうむる。しかも各回の期日は、証拠調べでもしない限り数分で終わることが多い。
  • 少額訴訟と同様、訴訟なので自分に有利な事実は自分で主張したり立証せねばならず(訴状や準備書面に書いたり証拠を提出せねばならず)、適切にできなければ真実がどうであれ、裁判には負ける
  • 適切な主張立証ができても裁判官に執拗に和解を勧められる。判決が取りにくい。
  • 判決が取れたり和解にたどり着いたからといって、相手が必ずお金を払ってくれるわけでもない。
  • 弁護士・司法書士に依頼していた場合、相手から支払があっても費用倒れすることがある。特に少額の事案で顕著。

このように、一気に並べてしまうと労働紛争で訴訟に期待している方には絶望されかねない特徴、というより実情があります。

残業代請求では、専門家はどう対処しているか依頼を選ぶ人も訴訟を避ける人も

これらのハンディキャップを克服して妥当な成果の実現を目指すのが、司法書士であれ弁護士であれ個々の専門家の芸なのかもしれませんし、こうした実情を当然視して適当に仕事する、という人もいます。

適当に仕事する、ならまだいいほうかもしれません。ここ数年で増えてきた残業代請求の依頼を集めたい司法書士・弁護士のウェブサイトのなかには、通常訴訟そのものを避けるか推奨しない、あるいは着手金を高くして労働審判に依頼を誘導するようなものもあります。

ウェブサイトで弁護士や司法書士を探すとき、その事務所が依頼人の指定した方針で最後までつきあってくれるのか、あるいは適当に譲歩して裁判所外での和解や労働審判申し立て→調停成立を実は目指そうとしているのかは、よく話を聞いて見極めることが必要です。不当解雇事案でも同様に、通常訴訟が高い報酬設定の事務所を見かけるようになりました。

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完全に自分だけで裁判をすすめることの是非愚劣な本人訴訟もあります

近年ではウェブサイトでいろいろな人たちが情報を提供しているため、見よう見まねで本人訴訟を起こす人も増えてきているように思えます。事案は単純な賃金未払い・名ばかり管理職のサービス残業代請求・解雇無効確認請求などさまざまです。

こうした人たちが手続きを頓挫させてから、最悪の場合は地裁第一審の判決直前か直後になって裁判書類作成の依頼を受けることがあります。お受けしてはいますが、裁判であれなんであれ自分でおかしくしてしまった状況を復旧する手間がかかる以上少々多めにお金をもらわざるをえません。
…と申し上げると、思っていたより高いからやめた、と控訴審まで自分で訴訟を続けて順当に負ける、という例もあります。

散発的な法律相談やウェブサイトでの情報収集のみに頼って本人訴訟を、特に名ばかり管理職の残業代請求や労働者に非がある不当解雇での解雇無効=地位確認請求といった、誰がやっても複雑になる訴訟をすすめることは、これだけ情報が氾濫している現代にあってもかなりな冒険と考えなければなりません。

裁判以前の問題も日本語としてわかりにくい準備書面がたくさん

法律構成や裁判手続きのわかりにくさ以前の時点で、日本語の文書として提出書類が読みにくい・わかりにくいことがあります。当事務所への裁判書類添削の相談では半数程度いると考えてください。

筆者も含め、人は自分が思ってるほど有能ではないということです

多くの人は自分が経験した事実を、その事実を知らない人に文書で正確に説明する能力を日常ではあまり試されません。そのために能力が向上することもない一方、裁判での無駄な苦労を美化して原因を考察しない(こんなに頑張って戦ってるんだ!という自分にひたすら酔う)面があります。本人訴訟の様子をブログに書く人の文章をいくつか読んでみると、思い入れがなければ読めないものが多いことに気づくかもしれません。

情報入手ではなく、取捨選択が肝心ですこれができないから難しいのです

残業代の請求について一時期検索エンジンで上位に出てきた、ある本人訴訟の記録のウェブサイトを見ていると、残業代の請求を巡って和解したあとで『有給休暇の賃金を、あとで少額訴訟で請求する』という記述が出てくるものがあります(平成24年10月現在)。その訴訟で包括的な和解が成立しているなら後で別の請求ができるはずもなく、その点を知って和解に臨まなかったことでその人は権利の一部を失った、と考えなければなりません。

平成26年現在では、給料未払いに際して会社の財産に仮差し押さえをかけたあと支払督促を申し立てた、という本人訴訟のサイトも上位に来ました。仮差押後の本執行(差し押さえ)は通常訴訟あるいは少額訴訟の結果を用いておこなうもので、支払督促の結果を利用できるわけではありません。

これらの労働者達は戦略的に失敗していたのですが、個々の手続きの一部が戦術的に成功したため失敗に気づいていないというだけです。

ウェブで情報が沢山でているから大丈夫、というものではありません。

ご自分が必要だと感じている情報以外の情報にも重要な点がたくさんあり、本人訴訟ではそれが勝敗にかかわるかもしれない、と考えてほしいのです。
いい専門家は、そうした助力や反撃に使える引き出しを多く持っています。

付加金を期待するのはどうかと思います焼け太りを目指す人には共感しません

労働紛争でない民事紛争であれば、判決でも和解でも調停でも支払われるべきお金がもらえればどちらでもいいといえます。
一部の本人訴訟のように当事者が『訴訟で争い、第三者の判断=判決を得ること』それ自体に思い入れを持っている場合は別ですが。

ところが労働紛争では、判決を得ることで日本の法律では珍しい制度の適用を受ける可能性があるのです。
それが、労働基準法第114条の『付加金』です。

付加金とは本気にしてはいけない規定と思ってほしいです

付加金は簡単に言うと、労働基準法所定の時間外労働等割増賃金・解雇予告手当・休業手当・有給休暇中の賃金の支払いを怠った使用者に対して、訴訟でこれらの未払い金の支払を請求する際に、実際に未払いになっている金額のほかに、それと同じ額の「付加金」の支払を訴訟上請求できるというものです。

つまり50万円分未払いの割増賃金、つまり残業代があれば、訴訟を起こす際にはその50万円+付加金50万円の支払を請求できるわけです。

「支払をさぼった奴に対して、もらってないお金以上のお金を払えと言えるチャンスがある」という点で日本の民事法制度の中ではきわめて特殊なこの付加金ですが、実際には裁判所が『判決』を出し、それが確定しないともらえません。

また、残業代等の未払いが確認されても裁判所が必ず付加金の給付判決を出すわけではありません。

付加金が欲しければ判決を取れ控訴審まで、数年がかりで取れ?

付加金が払われるには、和解ではだめ、第一審で判決が取れても控訴審で和解されたらだめ、そしてもちろん訴訟以外の全ての手続でも絶対だめ、ということです。
つまり「付加金が欲しければ判決をとれ(控訴されても和解せず、判決を確定させろ)」ということになります。
制度上、提訴の際に付加金の支払いを求めれば訴訟提起の際に納めなければならない手数料も増える(名古屋高裁管内の場合)のに、和解で終わったときにはおさめた手数料はムダになります。

判決が出された際には付加金の支払いを命じられる可能性を相手に見せて和解金額をつりあげる、という行動は本人訴訟においてもあり得ますが、これは狙ってできるものではありません。

当事務所でも付加金給付判決の獲得事例はありますが、筆者自身は本気で付加金給付判決を狙うような方針を決しておすすめしていません。

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自分に有利な管轄裁判所を、選べる可能性未払い賃金以外の請求を探します

これまで上げたような不便さや危険性、さらにはご自分の主張や戦略的方針が誤っていたり証拠が十分用意されていない、それが敗訴につながるかもしれない、などなどいくつもの不利な点さえ受け入れて通常訴訟を選ぶなら…あるいは、選ばざるを得ないなら、他の裁判手続きに比べた場合に通常訴訟がもっている特徴を有利に活かすことを考えます。

訴訟(通常訴訟および少額訴訟)は労働審判や支払督促と違って管轄の裁判所を原告に有利に選べる可能性があり、特に労働者の現住所と訴えを起こしたい会社の所在地が離れている場合には、裁判所での手続きとしてあえて訴訟を選ぶことがあります。もう少し説明します。

義務履行地の管轄「カネ持ってこい」と言える人の住所です

少額訴訟および通常訴訟の場合は、相手の所在地のほかに義務の履行地を管轄する裁判所に提訴することができます。

では義務の履行地とはどこかを考えると、賃金以外の債務の場合は、原則としてお金をもらうはずの人(債権者)の住所地でお金を支払う=義務を履行するものとされています。
こうした債務を、(債務者が債権者方にお金を持参するので)持参債務といいます。

したがって持参債務の性質をもつお金の請求訴訟では、債権者=訴えを起こす人の住所地を管轄する裁判所に提訴できることになります。

賃金は、通常は勤務先で受け取ったり銀行振り込みで支払われているために持参債務とは考えられていません。

これに対して、労務を提供した人が個人事業主として扱われている場合の業務委託報酬や会社の費用を立て替えたお金、事業主に貸したお金をどこで支払うかには特に規定はないため、当事者のあいだで取り決めをしていなければ持参債務にあたると考えられます。

未払い賃金のほかに、お金の請求はないか時には必死で探します

このことから未払いの給料や残業代の請求をしたい場合、ほかに持参債務に関する請求を含んで提訴することができそうなら、労働者側に有利な管轄裁判所で手続きをおこなうためにいきなり訴訟を選ぶこともあります。
労働者が会社に対して費用を立て替えていたり、お金を貸している・出資しているということはときどきあるので、民事調停や労働審判ではなく訴訟を選んで労働者に有利な裁判所に提訴するわけです。

この反対の失敗例として、遠方にいる人にお金を貸していて、その人に対して支払督促を申立てて異議を出された結果、相手の住所地に近い裁判所で本人訴訟を続けるか支払督促申立を取り下げるかを選ぶことになった事例があります。

借りているお金を返す債務は典型的な持参債務なのですが、その事例では支払督促を取り下げ、実費を無駄にして新たに通常訴訟を起こすことになりました。

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労働関係訴訟の件数と残業代請求専門事務所事務所の数ほど増えない訴訟

世の労働紛争のうち、ある裁判所で実際に訴訟として係属したものは一体どれくらいあるのでしょう?

名古屋簡裁・地裁について当事務所では定期的に調査しています

司法統計を見ても裁判所ごとの件数は出てきませんので、当事務所では毎年一定期間、これを調べています。

平成22年7月と10月の二回、約2週間にわたって名古屋簡易裁判所の開廷表を毎日調べてみた結果は、7月は2週間で2件、10月は2週間で6件となりました。ただし10月は、同一の会社を被告として原告労働者が異なる少額訴訟が同時に3件設定されたことで件数が増えただけで、実質的には被告の数を基準にして4件、と考えるべきでしょう。
これは、少額訴訟と通常訴訟の件数の合計であって民事調停・支払督促事件を含みません。

平成28年10月の調査では、2週間で4件となっています。

つまり名古屋簡易裁判所程度の大都市の簡易裁判所であっても、給料未払いや解雇予告手当・残業代の請求をする労働関係訴訟は1日に1件もない、という程度の件数です。同時に名古屋地方裁判所の件数も見てみましたが、こちらは平均して1日2〜3件(平成28年10月現在)、といったところでしょうか。ただし労働審判の件数が開廷表からはわからないので、実際に地裁で扱われる労働事件の件数はもう少しあるはずです。

このことから、名古屋をはじめ東京・大阪以外の地方都市にあっては、簡易裁判所で労働事件がたくさん係属していたり、司法書士がその訴訟代理や裁判書類作成に関与していて、たくさん経験をもつ人がいる…ということはあまり期待できないといえます。
まして中小都市や郡部ではもっと難しいだろう、ということも。

残業代請求・不当解雇を扱う士業事務所の問題点過払い金なき後の仕事場

平成23年頃から、ウェブサイトの作成や検索結果に表示される広告(PPC広告)を通じて残業代請求のあるいは不当解雇の依頼を集める弁護士・司法書士の事務所が増えてきました。
全国対応や無料相談を標榜するのはほぼ普通で、なかには残業代を無料で計算したり、着手金を請求せず完全成功報酬制とする事務所もあります。

これらの事務所が華々しく活動して実績を挙げているなら、残業代請求が訴訟になる件数も増えているはずです。

東京でも、残業代請求訴訟は日に数件多いと思えません

平成25年5月のある日に東京地裁・簡裁で調べたところ、賃金等請求事件または残業代請求事件という事件名を持つ訴訟の件数は地裁で3件(うち、残業代請求は1件)、簡裁では残業代請求と読み取れる訴訟はなく、賃金請求事件が2件あるのみでした。

東京でも給料未払いや残業代の請求が訴訟になる件数は一日に数件程度あるかどうか、と考えなければならないようです。これはどういうことなのでしょう?

近年、弁護士や司法書士の事務所で勃興してきた残業代請求という業務は、平成24年頃までに崩壊した債務整理(過払い金請求)バブルのあとに商売熱心な事務所によって注目された業務だと仮定した場合、彼らが過払い金返還請求とおなじ態度で業務に当たることは容易に推測できます。

では過払い金バブルの頃、そうした事務所は何をしていたでしょう?

  • 面倒な訴訟を避けて任意の交渉で、
  • 適当に譲歩して楽に解決する、
  • 依頼としてはできるだけ楽で多額な案件を選んで受任し、
  • 難しそうな案件は受けない、
  • その選別のために、ウェブサイトで客を集めて無料相談をおこなう。

こんなことをしていたものです。

この時期に当事務所の労働相談で聞いた話では、名古屋市内のいくつかの弁護士事務所に残業代請求の無料相談を持ち込んだところ、まず未払いの残業代を請求する期間が2年あるかどうか聞かれ、それより短いと答えたところすぐに依頼を回避されたとのことでした。

そうした対応だけで憤激を誘うものですが、問題はそんな事務所が同じ市内に複数あったということです。

失笑するほど、露骨な選別もあります儲け重視なら悪くない判断です

事務所経営の裏を知っている立場からみれば、上記のような対応は未払い残業代請求という社会性があるテーマで、正義の実現をかかげて労働者をカモにするビジネスとして非常に優れている、といえます。

しかし、事情を知らない普通の労働者がこんなふうに弁護士から依頼を拒否され続けたら泣き寝入りしたくなるのもわかります。

誰にも相談せずに本人訴訟をすすめるのはいかがなものか、と書きましたが、実際にはまっとうに依頼を受けてくれる司法書士や弁護士の事務所がないからそうせざるを得ない、ということもあるのかもしれません。

そんなときには、当事務所の利用も一応検討してみてください。

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通常訴訟に『せざるを得ない』もの消極的選択としての通常訴訟

他の手続きについて説明しているページでは『その手続きに向く案件』を紹介していますが、訴訟については積極的に選ぶというより『(労働審判に適さないので)やむを得ず選ぶ』ことが多いです。そうした案件について説明します。

使用者が労働者性を争うもの

数年前までは小規模な土建業者・風俗営業を営む会社との紛争でよくみかけました。そのうちに一般企業も「その労働者とは業務委託契約を結んで就労させており、労働者にはあたらない」と言い出すようになりました。

労働者ではないから残業代は払わない、いきなりクビにしたっていいだろ、という理屈です。

我が国労働法ではどのような契約が労働契約であるか(どのように働く人が労働者であるか)は働き方の実情を見て決めることになっており、契約書の字面は判断の一要素に過ぎません。ですので名目はともかく実質は労働者だ、と主張することは法律上、可能です。

ただし、これを証拠等で明らかにすること=立証責任は労働者側にあります。これを手際よくできないため、あえて時間がかかる通常訴訟を選ぶわけです。労働審判手続でも労働者性を認めさせた事例はありますが、何かの要素を一つか二つ持っていれば(つまり、ウェブから収集・判断できる程度の情報で)これが実現できるとは全然考えません。このため使用者が労働者性を争う多くの事案で、労働審判手続が不適になり選択肢が通常訴訟しかなくなります。

残業代請求で、使用者が労働時間規制の例外を主張するもの

使用者側が労働者に対し、裁量労働制や変形労働時間制、事業場外のみなし労働時間制への該当などを主張して残業代請求を減額または排除しようとするものです。

これも労働者側から働き方の実情や労働時間制度の例外が導入される過程の不適切さを立証していくことで対応できるのですが、相手の反論に応じてさまざまな証拠を出していく必要があります。これを労働審判で手際よくできるとは限らないので、難しいものほど通常訴訟に流れたくなります。

管理監督者への該当性については近年、使用者側の主張が通りにくくなってきたので労働審判手続を選ぶことがありますが、部長・取締役など高位の職制であるほど難しくなることに変わりはありません。

労働者側に非がある解雇事案

嫌な言い方かもしれませんね。

労働者本人が認める気があるかどうかはさておいて、解雇や雇い止めが言い渡される過程で労働者側にも問題がある、解雇が有効か無効かの判断が微妙になる事案は見かけます。

こうした事案では使用者側の反撃が一時的に効果を発揮することはある(使用者側から主張立証がでてきたタイミングで、裁判所から見て解雇が有効に思えてしまう)ため、さらに労働者側で反論しやすい通常訴訟を選ばざるを得ません。

労働者が復職をめざす不当解雇事案

なんらか強い意向があって復職を目指すか、そうでなくても解雇無効の判決を取りたいような場合です。通常訴訟の提起の前に賃金仮払仮処分を申し立てることをまず考えます。仮払仮処分が認められれば毎月いくばくかの賃金が仮に支払われるため、経済的には相当楽に訴訟を進めることができます。仮払いの月額は家計費を考慮して決められますので、必ずしも解雇前の賃金が払われるわけではありません。

最終的に必ず復職するわけではなく、和解で終結できる場合はそれまで仮払いされた賃金の全額と、さらに数ヶ月分の解決金の支払いが認められて終わることも多々あります。これはハッピーエンドの一つだと言っていいでしょう。

ただし、仮払仮処分で支払われるお金はあくまで『仮に』支払われるだけです。解雇が有効だという判決が出てしまった場合は払われたお金を全部返還する必要があるため、金額によっては恐ろしい打撃を受けます。

かんたんに言うと、一ヶ月20万円の賃金仮払いが認められて1年訴訟を戦い、解雇有効の判決が出てしまったらすでに使ってしまったであろうお金を240万円一括で返す必要が発生するわけです。

当事務所でこの申し立てに関与したことは1件しかなく、それは成功しましたが…失敗すれば人生が変わりかねない申立類型です。相談後にご依頼を受けなかった案件は複数あり、そのなかには上記の失敗に至ったものもあると聞きます。

労働審判の管轄裁判所が遠いが、通常訴訟なら近くにできるもの

例を挙げます。

  • 東京の会社で働いていたが退職後に名古屋に転居した
  • 残業代100万円のほか、未精算の交通費1万円を請求できる
  • 労働審判だと管轄裁判所が東京地裁になる
  • 未精算の交通費は賃金ではない(労働者が会社のために立て替えて、会社に支払を求めることができるお金=不当利得返還請求権であることが多い)
  • したがって交通費の請求権は持参債務になり、通常訴訟であれば名古屋の裁判所を選択できる

こうした、持参債務にできる請求権を主な権利のほかに持っていて労働審判の管轄裁判所が遠い案件ではかなり難しい判断を迫られます。通常訴訟をあえて選ぶ場合は時間がかかるとか、簡易裁判所の裁判官が書類をよく読まない(←大規模な簡裁で実在します)といった別の問題も発生するため、管轄を有利に引き寄せて通常訴訟にするかあえて交通費を負担して労働審判を申し立てるのがいいかは事案により異なります。

相手の会社から遠い裁判所に手続きができれば、相手には不利ではないか、と考えてはいけません。被告側に訴訟代理人が着くと、たいていは通常訴訟の第一回期日以降は弁論準備手続(非公開)の期日が設けられて手続きを進められることになり、この手続きは訴訟代理人の事務所と裁判所を電話でつないで進めることができるからです。

つまり、会社側弁護士には遠方で訴訟を起こして貰えればむしろ楽だ、という逆転現象が生じます。
一方で本人にはこの電話会議の利用、ほとんど許されません…裁判所も気分で仕事してるのではないかと思いますが実情としてそういうものだと考えておいてください。
裁判所に都合良く和解できるとなった状況下では本人でも電話会議の利用ができたこともあるため、本当に気分で仕事しているのかもしれません。労働紛争ではないですが、愛知県の当事者から見た東京地方裁判所の話です。

書証が貧弱なすべての案件

裁判手続きの基本として自分に有利な事実の存在は自分が裁判所に示す=立証する必要があります。これは多くの場合『文書』つまり書証の提出によっておこないます。

言い方を変えると、証拠が残っていないか少ないほど不利なわけです。ただ、この場合でも相手方がミスすることはあり得るため『ミスするかどうかの試行回数=裁判所で開かれる期日=準備書面を提出する機会』が多く設定される通常訴訟を選択して手続きを始めることがあります。これは簡易裁判所への少額な賃金請求でも地方裁判所への残業代請求でもあり得ます。

ただ、これまで相談を受けた人のなかには(証拠はないが)「自分が反対尋問をすれば相手のウソを明らかにできる」と言ってそのとおりにできずに終わった人もいました。最終的にミスの少ない方が勝つ、というのは訴訟でもスポーツでもある程度レベルが高い集団のなかでの話で、この方策を採るとしたらまず自分のミスに気づき減らす営み、つまり多数回の違う法律関係者への相談による現状の客観的把握が必須だと考えます。

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